おお振りNovel

□栄口
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亜紀姉は美人だ、そこらの男は大概黙って見過ごさないだろうほど美人だ。

「……ってか可愛い系?」
「いや、そう聞かれてもさぁ」

話を振られた栄口は苦笑した。会ったことのない女の人を、どうやって表現すればいいのか。
写真とかないの?と聞けば首は横に振られた、知る由もない。
まあとにかくだ、

「最近それに焼き餅妬いた兄貴がウザい」

部内で一番と言っていいほど大人びた性格の栄口は、そんな理由で泉の家へ招かれた。
兄への対応策を教えて欲しいとかで偉そうにお願いされた事は記憶に新しい。
それにしても泉には兄がいたのか、栄口は意外なようなそうでないような事実に唸る。
確かに兄を持つ弟の性格をしているようにも思う。
しかし田島や三橋に対するそれはまるで兄である、てっきり下に弟でもいるのかと思っていた。それでは当たり前すぎて面白くない、というのが本音だが。

そんな風に思考を巡らせていると、階下よりバタンッ、ドタドタと階段を掛け上がってくる音が騒がしく響いてきた。
そう思っているうちに勢いよくドアが開き、背の高い、仮にも女には見えない男が今にも泣きそうな顔をして飛び込んできた。

「こーすけえぇぇっ!亜紀がぁぁっ!」
「散れ散乱しろ」
「酷くね!?亜紀も孝介も二人して酷くねぇ!?」

俺だって泣くぞーっ!と盛大に男泣きし始めた彼に泉は、これこれと指した。
うわーマジかぁ、と目を張ればその男はガバッと顔を上げた。

「あ、孝介の友達か?」
「野球部のダチ」

泉の紹介に合わせ、ちわっすと挨拶すれば同じ様に返される。
名前は?あ、栄口勇人っす。

「俺孝介の兄貴、雄介な」

ニコニコと笑うその顔立ちは、よく見れば整っている、わぁこの人十分カッコいいんじゃん。
泉の兄だからもっと可愛い顔なのかと思ったんだけどなぁ、と失礼なことを思っていればいきなり肩を掴まれた。ガタガタと揺れる視界が乗り物を彷彿とさせる。

「勇人でもいい!聞いてくれよ!」

俺の彼女マジ可愛いんだけどさ他の男がアイツのこと狙ってんだよ注意してもそんなことあるはずないとかって聞いてくんねぇししまいにはウザいとか言ってくるし孝介は話すら聞いてくんねぇしあれ俺年上だよなとか思うんだけど弟として孝介冷たくねぇどう思う!!?

栄口としては後半は全く聞いていなかったし関係は全くなかったのだが、泉の言っている「ウザい」の意味が分かった。
まるでマシンガンだなぁとか片隅で思えばまた視界が揺れた、いい加減乗り物酔いを起こしそうだ。

しかし可愛い性格の兄ではないか、たしかにウザいけれども。
弟もこんな風に思ってるのかな、などと考えたらいたたまれなくなるが。

「雄介さん雄介さん」
「なんだ勇人!」

何か解決策でも見つけてくれたのかとキラキラした目で栄口を見る雄介に、彼は笑顔を向け言い放った。





とてもウザいです


(満面の笑みでそんな……)
「なるほどそうすりゃいいのか」
「孝介!?」





090311

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