企画参加夢

□永久の眠り
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こちらの情報が漏れるようなことはないようにお願いしたい、でなければボンゴレは大変なことになる。

十代目を襲名した時に、先代より伝えられた約束事。
それはどのマフィアにも大切なことで、流出には細心の注意を払っていた。
それは逆に、情報が手に入れば優位に立てるということ。
いかにして相手の情報を手に入れ、こちらの情報を与えないかという駆け引き。
綱吉が率いるボンゴレは、イタリアンマフィアの中でも特にそれが優れていた。

「スパイなんてさ、よくやるよね」

そう言いながら溜め息を吐く。
隣には右腕が出立ち、相変わらずタバコをふかしていた。
イライラした顔で吐いた煙が綱吉を背にしてゆらゆらと漂う。
スパイがいるという話は聞いていたが、まさかそれが彼の部隊の隊長とは考えられなかった。
で、どこのファミリーなの?昔と変わらない、しかしそれにしては黒い笑みを浮かべ、目の前に佇む人物を見据えた。
開け放った窓から爽やかな風が流れ込み、それとは対照的な室内の空気をぐるぐると混ぜる。

「ボンゴレの情報網を舐めてんのかな、それともただ無謀なだけなのかな」

そっちのファミリーもさ、と、玉座のように構えられた机の上にバサリと沢山の写真を叩きつけた。
写っているのは、書庫で何かを探す、盗聴器をつける、守護者とボス以外は入室を許可されていない執務室に侵入する、その人の姿。
こんなに証拠があがっちゃ、言い逃れは出来ないよね。細く微笑む綱吉の目は、それでも笑っていなかった。
グッと下唇を噛むその動きが取れて見え、銀髪が舌打ちをした。

「知ってるよね?うちに長くいるんだし、ここに入ってきたスパイがどうなってきたかくらいはさ」

もちろん例外などなく。
噛んでいた下唇をはっと離し、今度は肩を震わせた。
今まで生きて帰ったものは、いない。
ソファー程あるのではないかという椅子から立ち上がり、綱吉はカチャリと音を立て黒光りするそれを向けた。

「任務失敗、お疲れサマ」

グッと、指に力を入れる。

と、その時だった。
その人物の隣で沈黙を守っていた彼女が引っ張られた。
止めることができなかった指が、そこから死へと導く鉄の塊を勢いよく放つ。
ダァン、という破裂音が部屋中に響き渡り、綱吉や獄寺の耳を一時的に麻痺させた。

飛び散る赤に、呆然とする。
引っ張られた勢いと支えをなくしたことにより、体が床に倒れていく。
まるでスローモーションのようで、我を忘れ綱吉はそれを眺めた。
サラサラと流れる髪が全て床に張り付き、赤く染まる。

舌打ちが聞こえたかと思うと、今度は綱吉の隣から発砲音が鳴り響く。
二度、三度……
再び沈黙が訪れたときには、二人の前に生きているものはなかった。
ただ思いもしなかった死体がひとつ、目の前に鎮座する。

「……ぁ」

小さく声を漏らすと、獄寺がすぐにそれに駆け寄った。
しかし何ヵ所か確認を取り、綱吉に向け首を横に振る。

それに、
確かめる必要もないほど、綱吉の放った弾丸は、彼女の頭を貫通させていた。

「……おれ、が、おれが……おれが!」
「十代目……!!」

獄寺の声など聞こえない、集まってくる仲間たちのざわめきすらも聞こえない。
ただ聞こえるのは、あの言葉。

『仕事とプライベートは別だよ、だからどんなに危険な仕事だってやるよ、綱吉』

最愛の、撃ち抜かれた彼女の言葉。










眠り





『綱吉、スパイ見つけたよ』
『え、本当に?』
『情報なら任せてよ、調べ上げて、証拠だってばっちりなんだから』
『さすがだね』
『連れてくるよ』
『でも、危なくない?』
『大丈夫!わたしだってボンゴレの人間よ?』

拘束して連れてくるなんて、できなくてどうするのよ。笑顔で言った彼女は、もういない。






end










茨がわたしの心を抉る様提出
ありがとうございました。

12.06.06. Minato Ao










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