おお振りNovel

□阿部
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タンスの角に足の小指をぶつけて苦しめ。
朝弟に言われた一言がまるで呪いの如く、今日一日阿部を苦しめていた。

例えばサッカー部の練習に遭遇し顔面でパスを受けたり

例えば覚えのない教科書の落書きが先生に見つかり怒られたり

例えば調理実習で鍋が異様な爆発を起こしたり

阿部の怒りボルテージはかなり上昇していた。
そこへ放課後練習の三橋の態度だ。
ビクビクオドオドはどこへやら、キラキラした瞳を見知らぬ人間に向け放っているのだ。

「あれ誰」
「泉の兄ちゃんの雄介さん」

阿部のイラッとするような(不機嫌な声にコッチを見ない)質問の仕方にも臆さずに、栄口はサラッと教えてくれた。
自分から聞いたくせにふーん、としか反応を示さない阿部に、栄口は苦笑しか漏らせない。

あ、阿部ってば「なんでいるんだ」とか思ってんだろうな、と思考を巡らせれば、阿部が栄口にぐるりと顔を向け口を開いた。

「で、なんでいんの?」

あ、やっぱりね。栄口の笑いに阿部のボルテージは上がる一方だった。

「雄介さんね、野球少年だったんだって」
「速球のピッチャーやってたらしいよ」
「今はジムでバイト中だって」

栄口から聞いた雄介の情報を軽く流しながら聞く。
つまりあれだ、ん?どれだ?とイライラする頭で考えていると、こちらに雄介がやって来るのが見えた。

「キミが阿部隆也?」

はぁ、という阿部の返事に雄介の口が炸裂する。

俺孝介の兄貴の雄介ねーよろしく、ところで隆也ってキャッチャーなんだって?配球の組み立て大変でしょいつから野球やってんの?俺の球も捕ってみないっつーか投げたいだけだから捕ってくれると超嬉しいんだけどー

ペラペラと動く口を見て、今日最大のイライラが阿部を襲った。



うるせーよ


「え!あ、隆也ごめ」
「隆也って呼ばないで下さいウザイっす」
「俺嫌われてる!?」



090824

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