おお振りNovel

□水谷くんと一緒
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時が止まったように思考が停止するのは、驚いた時と現実を区別出来ないとき。今の状況は後者だ。
午後の始業を知らせる鐘が無情にも響き、愕然とした。
出てくる言葉は「みんなヒドくない!?」、それだけ。

水谷はたしかに今までいたはずのクラスメイトもといチームメイトの、もう見えない背中に罵声をいつくか発した。むなしくなってすぐにやめたが。

たしか5限目は科学、よぼよぼのオジイチャン先生だったことを思い出す。
彼が野球部を熱心に応援し、多少のサボりなら目を瞑ってくれるのは有名な話。

今度肩揉んであげよう、だからごめんね先生。と水谷は周囲で一番空に近いその場所に寝転んだ。
みんながせっかくくれたサボり時間、不本意だが有意義に昼寝でもしようじゃないか。

初夏にしては涼しげな風が髪を弄ぶ、鐘も鳴ったので屋上には人が来ない、サボりには最高のロケーションだ。

そう思っていたのに、ガチャンという音に全てがかき消された。
自分で決めたわけではないが、サボりがバレる!水谷は慌てて貯水タンクの裏に隠れた。いつも、なんでこんなところにタンク?邪魔だよ。と思っていたが、今はその存在に感謝した。

ペタペタと履き潰した上靴の音が耳に触れ、それは次第に近づいてきた。心臓をドクンドクンと動かしながら、ふとした考えが頭をよぎる。
それは足音が近づくにつれ、だんだんと確信に変わった。これは教師ではない。

なら安心だ、と安堵の溜め息を吐くと、急に足音が消えた。
あれ?と恐る恐る首を動かすと微かにニコチンの薫りが鼻を掠める。

「……あ、」

思わず声を漏らした先に、明るすぎるほどの茶髪と煙を見た。
私服ならではのアクセサリーやピアスがジャラジャラと重なり、重そうな音が響く。すぐに女とわかる風貌なのに、そうとは思わせない座り方にドキリとした。
水谷の声に気付いた彼女は、どこかのホラーゲームのようにこちらを向く。

バレた。ヤバい。などの表情は全く見せず、キラキラ光る睫の上下を寄せた。
そして思った通りの綺麗な声で呟く。

「……テメェ誰だよ」



君と僕

「俺、は……」
「興味ねぇよ」

思った声で思いもしなかった言葉遣い。戸惑いを隠せない水谷に彼女は言い放った。
それにどこか威圧感を感じ、口ごもってしまう。
目についたのは、高校生が吸ってはいけないもの、煙の元だった。

「あ、た、タバコは、ダメだ……と思……」
「あ?」
「いえ……」

いけないことをしているその人が、なぜかキラキラして見えたとか、綺麗だと思ったのは、誰にも言わないでおこうと思った。



水谷と会う
(090810)

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