企画参加夢

□さよならというには若すぎた
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本部に子供の声がし始めたのは、もう随分前のことに思えた。
本来入室が禁止されている守護者の執務室からも響いてくるその声は、いつからか癒しとなっている。
ボスの執務室で眠っている少女を横目に、雲雀は綱吉に報告書を手渡した。
で、この子供はなんなの?そう目で訴える浮雲に、苦笑する。

「抗争の時の子ですよ」

数日前に起こった抗争は、ボンゴレが加わった時には既に一つの街が消滅しかけていた。
高い鳴き声が響き、そちらに目を向ければ少女と、息絶えた男女の姿。
いくら探しても他の生存者は見当たらなく、ボンゴレファミリーはこの街のさいごの生存者として少女を保護した。
ただ、いくら話を聞いても少女は自分の両親がどうなったのか、自分が誰なのかを認識できていなかった。
他の任務でイタリアを離れていた雲雀にはわからないことではあったが、話を聞く限りきっと綱吉の独断だったのだろうと予想を立てた。
事実そうであり、きっと否定はしないだろうボンゴレの現ボスは、少女を見て微笑む。
呆れた様に溜息を付き、雲雀はポケットを漁った。
少女の手元にコロンと一つ落とし、同じものを綱吉に与える。

「起きたら渡してよ」

口元だけで笑い告げると、そのまま部屋を離れる。
渡された少し高価なチョコレートを口に含み、素直じゃないなぁと微笑んだ。

比較的和やかな雰囲気を纏ったボンゴレだが、少女が来てからはさらにそれが増した。
あの獄寺や雲雀までもが少女の来訪には仕事の手を止め、相手をするというのだから子供の力は凄いな、と驚きを隠せない。
少女のことを考えると心は痛むのだが、ほがらかに笑った顔を見ると忘れてしまいそうになる。
このままボンゴレに所属してもいいかもしれないな。綱吉は一人思った。
家族が居なくなってしまった少女に、家族のような空間にいてほしいという願い。
この平和を皆で忘れないでいたいという思い。少女のおかげで忘れかけていた心が蘇ってきたのなら、それを大切にしたかった。

なのに、どうやらこの和やかで平和な時間は続かないようだ。
ボンゴレに敵対するファミリーとの抗争。火種が本部にまで及んだ。
こんな事態になるなんて……、綱吉は非戦闘員を地下のシェルターに誘導し、指揮に回る。
所々から爆発音や発砲音が鳴り響く。
戦況はボンゴレが優勢、負傷者は少人数と報告を受け、一先ず胸をなで下ろした

「油断はしないで、被害は最小限に、確実に排除」

ボスの命令に従う部下たちは、すぐに各々の持ち場に戻る。
しばらくすれば鎮静の報告があたりを飛び交い、戦闘の処理が始まった。
綱吉は比較的被害の大きな執務室の方へ足を運んだ。
いつもは綺麗に飾られた花や磨かれた床は爆発で廃墟のようになり、土煙が上がっている。
幸い人はいないようで、明日から仕事はどこでしようかなどと思いを巡らせた。
どうやら敵は執務室をあらかじめ狙って攻撃をしていたらしい。
守護者、あわよくばボスである綱吉をターゲットとしていたのかもしれない。
たまたま守護者も合わせ全員で外に出ていてよかったと安堵の溜息を吐いた。
しかし収まらない胸騒ぎが、気づけば大きくなっている。
なぜか止まない冷や汗を拭うと、カタンと微かに物音がした。
コロコロと瓦礫が転がり、何かが動く。
小さな手が、そこから顔を出していた。

慌てて駆け寄ると、瓦礫の間に少女はいたらしく、すぐに引っ張り出せた。
大丈夫!?呼びかけるとうっすらと目を開き、彼女は少し笑った。

「綱吉、だぁ……みつけた」
「なんでシェルターにいないんだ!」
「危ないと思って、……探してたの、みんな」

もう、いなくならないで欲しいから。と。
綱吉のシャツを力を入れて握るが、しかし手にはほとんど力が入っていない。

「ちょっと……!!」

呼ぼうとして、止まった。
この少女の名前さえ、知らない。
歯ぎしりをし、懸命に揺さぶり、声をかける。
だが少女の力は弱まり、やがて綱吉から手が離れていった。










さよならというには若すぎた





少女が動かなくなる前に、綱吉の頭に流れてきた。
少女はボンゴレに来てしばらくして、全てを思い出している。
何も言わなかったのは、ボンゴレが少女に優しかったから。
ボンゴレが本当に家族のように思えてきていたから。
同情などされたくない、その一心で、記憶がないかのようにふるまい続けていた。

シェルターから抜け出した少女は、真っ先にいつもの遊び場である執務室へ行き、そして……。

綱吉は、もう動かない少女を抱きかかえ、ごめん。と一言呟いた。






end










実は、様提出
ありがとうございました。

12.06.24. Minato Ao










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