小説
□テレパシー?
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砂煙が舞う。
舞った煙が風に乗って、歩く此方側の進行方向と同じ向きに沿って背中からぶつかり、体積が軽いせいで、それらは前へと流れて行く。
ヒューバートは足を止めた。
砂煙が十分に過ぎ去っても、動かずに。
「わっ…………うえっ、砂が」
目の前では、あちらから歩いて来ていたアスベルが、まともに正面から風を受けてしまったらしく咳こんだ。
ヒューバートは、呆れた様に見せかける溜息をつき、己の眼鏡の位置を正す動作をして相手を見据える。
「……何で兄さんが、ぼくの前に居るんですか」
「えっ……それは、お前も……ヒューバートも、何で俺の前に居るんだ?」
此処で立ち止まる少し手前から、反対側から歩いてくる人物を微かに認識していた。
こんな砂煙の中を突っ切るような無謀で白いコートがよく似合う人はそうそういないだろうと。
お互いに黙ってその場に立ちつくす。
煌々と照らす太陽は、砂丘のその向こう側に沈みつつある。
もうすぐ夜が始まり、月が昇るだろう。
「その……俺は、お前に」
兄にとっては沈黙が辛かったらしく、早々に返事を返そうとして切り出す。
「ええと……」
「……。」
「な、何ていうか……」
「……。」
切り出して沈黙を破ったは良いものの、どう紡げば言葉が伝わるのかと悩み始めてしまう。
それでも先に切り出した兄の答えを待っていると、脳のフル回転した結果に出てきた言葉はとても率直で。
「ヒューバートに会いたかった」
「……それだけですか?」
「ああ」
「たったひとりで砂漠を踏破しようだなんて……、相変わらず無茶しますね」
「まぁ、来た事あるし、それに亀車とか使ったら駄目な気がしたんだ」
兄は、少し俯いて首を左右に振る。
そして「何故か、分からないけれど」と付け足した。
瞬時に、ふい、と、顔を上げて此方を向く。
「お前は、何で?」
「…………。」
自分が答えたのだからと、同じ質問を再度尋ねられる。
ぼくは真っ直ぐに向けてくる視線に耐えられなくて、視線がうろうろと宙を彷徨ってしまい。
「?」
「……………っ……」
「ヒューバート……?」
「同じ、ですよっ!」
少し口調を強めて言い放った。
「?」
ぼくなりに精一杯の答えだったのだが、省いた言葉では通じなかったようで、不安げな顔をされる。
(――ああ、もう、この人はっ……!)
「ここに来た……理由、です」
通じない事に腹を立てても仕方ないと諦め、力を抜いてから、ぽそっと付け足した。
「そっか、良かったな、入れ違いにならなくて」
兄はそう言って深く理由は聞かずに、逆光で陰りながら嬉しそうに笑う。
「さ、行こう」と、少し強引に手を引いて、ストラタがある方向に向かって再び歩き出した。
ぼくは引っ張られながらも、ご機嫌な兄の後ろ姿を見つめて考える。
(入れ違ってたなら、どうなっていただろう?)
……いや、考えるのも無駄だろう。
入れ違ったとしても、きっと――――。