花文庫

□二度寝はしない主義ですが
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遠くで朝を告げる鳥のさえずりが聞こえる。
暖かなぬくもりに包まれて、目を覚ました。
目の前には、珍しく熟睡している政宗の顔がある。
目を閉じて、薄く唇が開いているといつもより少し穏やかに見える。
眼帯を外した右目は髪に隠れているが、わずかに引き攣れた皮膚が覗く。初めて眼帯に隠されていた部分を幸村に見せた時、政宗が震えていたのが忘れられない。
「醜い痕だろ」と自虐的な笑いを含んだ声音で吐き出したのが、痛々しくて…でも、そんな政宗の姿を見れたことが、どこか嬉しくて。
身体を合わせるのとは別に、更に近づけたような気がした。
もっとも、幸村にしてみれば政宗が思うほど酷いものには思えなかった。
戦場では怪我を負い、醜い痕や足を失った者、病気で壊疽を起こした者など見てきているし、長いとは言えない人生の中で人の判断は外見ではなく内側にあるのだと思っていた。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てる唇と指先で辿る
昨夜、幸村のそこかしこを辿ったそこは少しかさついてた。
今度は頬を撫でると僅かに眉が寄った。

「政宗どの?」

起こしてしまったかと小さく呼びかけたが、睡眠の妨げにはならなかったようだ。

「ま…」

ふいに、夕飯前に話してた政宗の言葉が甦る。


『二人の時は、名前で呼べよ。アンタがあの忍びを呼ぶ時みたいにさ』
『佐助みたいに?政宗どの、どういう意味でござろう?』
『だから…その、どの、を取れってんだよ』
『な、無理でござる!』


歴然とした地位の差がある自分になんて無理難題を言うのだろうと思ったのだが。
今なら…

「ま、まさむ…」

ん、と眠っていた筈の政宗の唇から吐息が漏れた。

「政宗どの…?おはようござりまする…??」

声を掛けてみたが、すぅ、と寝息を立てている。
起きてはいないようだ。

「まさむね…、どの」

目の前の、寝ている男に向かって呼びかけてみたが、どうにも恥ずかしくて、最後にいつのもように、どの、と付けてしまった。

「ま、まさ、むね…、どの」

寝ている。

「まさむ、ね、、、、、ど、の」

「ま、さ、む、ね、…」

「まさむね」

幸村は静かに何度も、「まさむね」と眠る男の顔を見ながら練習を繰り返した。
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