花文庫

□恋の味
1ページ/1ページ



二人の間に生まれた感情は、あの時、初めて視線を交わした時から始まっていた。


触れるだけの接吻けをしたあと、ぐいと抱き寄せた幸村の体がびくと震えたのが分かる。

「怖ぇえか?」
「いえ、そうではございません」

腕の中でふるふると小さく首を振る幸村を感じた。

「ただ、この後、政宗殿がどのようになされるのかが分からず…、それは、少し不安に思います」
「Oh,Darling…かわいいな、アンタ」

抱えた頭は、意外と小さい。
きっと、この小さな頭で色々と考えを張り巡らせているのだ。
こちらも思った以上に柔らかな髪を撫でて、戦場では赤い鉢巻に覆われている額に唇を寄せた。

「政宗殿」

見上げてきた瞳の色は情欲とは呼べない、つたない感情に揺れている。

「もっと、口づけをくだされ」

する、と頬を寄せるようにすり寄る幸村に、それだけではすませないぞ、と小さく呟く。

「?」
「口を吸うだけじゃねぇ。俺はアンタの全てを欲しいんだよ」
「…それは、無理でござる」

この真田幸村は常に武田軍の大将・信玄の為だけに槍を振るい、戦場を駆ける。
どのような事があっても、最優先は信玄公の上洛、お館様の築く平和な世。

「なれど、政宗殿と対峙している時だけは…こう、心が高ぶるのです。ですから、政宗殿といる時間だけは、心は差し上げても構いませぬ」
「…たいした告白だな」

アンタにしちゃあ上出来だ。

「ですから、その時だけは。政宗殿もそのお心、この幸村に下され」
「アンタってやつは」

そこまでキッチリと俺を口説いた奴なんざいねぇぞ、と、今度は唇を合わせた。
合わさった部分から互いの熱が広がるようだ。

「OK、心ごと、今だけは体も与えてやるぜ」

その言葉に、歓喜で体が震える。
たまらなく、愛しいと…体中で応える。
例え、この甘い時間が一時のものだとしても…すぐに敵同士として相対すると知りながらも。
離れがたくなると知っておきながら…それでも求めてしまうのだ。

政宗の熱を感じながら、幸村はふと呟く。

「恋とは、残酷なものではありませんか」

以前、慶次は恋とは楽しく、この世を明るくするものだと笑って言った。
恋とは、甘く…切ない苦しみを伴う。

幸村の頬を、一筋の涙が伝った。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ