花文庫

□10年ロマンス
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「ま、ま、ま、まさ、むね、ど、のぉぉぉぉ!!!!!」

目覚めは、暑苦しい程の…愛しい相手の大声。
もうちっと甘い囁きでも良いんじゃあねぇか??
政宗は目を閉じたまま、腕の中に居る温もり…幸村を抱き寄せた。

「あの、政宗どの…、あのッ、政宗どのが、」
「Ah?俺はここに居るぜ…もう少し寝かせろよ」

昨夜は遅い時間に合流し、一度交わっただけだ。
週末のゆったりとした時間を二人で過ごそうと予約した、新しく出来た外資系ホテルのスィートルーム。
二人が並んで寝転がっても余る程の広さのキングベッドに、重なるように肌を合わせて眠り…久々に感じる事の出来た熱をゆったりと感じていたかった。それだけだ。

「朝は弱いんだ」
「…知っております、が…」

『ソイツは放っておいて、こっちへ来いよ、幸村』

んん???なんだ??

「し、しかしながら…」
「…ッ、ちょっと、待て!!!」

何故、俺と幸村の他に…もう一人、男の声がするんだ!?

「…誰、だ…てめぇ…?」

眠気の飛んだ頭で、重かった瞼を開けば…カーテンの隙間から、明るい朝日に映し出された部屋、抱き寄せた幸村の向こう、ベッドサイドのソファに腰掛ける、一人の男がいた。
年の頃は30歳前後だろうか…質の良さそうなシャツにデニム姿の、長く伸ばした髪を首の後ろで緩く結い、見覚えのある顔の造作、不敵な口元と人を見下す余裕を秘めた隻眼…右目の眼帯…

「政宗どの、で、ござるよ、ね?」
「俺はここにいるが…」

幸村は不思議なものを見る声音で確かめるように言葉にしたが、政宗自身も…歪んだ鏡を見ているような、不思議な感覚でいた。同族嫌悪、に近いかもしれない。
自分自身を写した人間を前にする不快感に襲われていた。
だが、まぎれもなく、目の前にいる男は…政宗と同じ意思をもつ生物なのだと、感じている。
きっと、この男に対する不思議な感覚は幸村も同じなのだろう。政宗に比べ、物事を感覚…直感で判断する幸村が、政宗、と呼びかけているのだ。

『さすがは幸村だな。正解、俺も政宗、だ』

組んでいた長い脚をほどき…うっとりするほど優雅な歩みで近付き、流れるような動作でベッドの端に腰掛け、ほうっと身惚れる幸村の唇へとキスを落とした。

「なっ…にしやがる!!!」
「…ッ、な、な、な、な!!!!」

幸村を抱きしめる、政宗と。
唇を押さえ、顔を赤らめる幸村を見て、『政宗』と名乗った男は瞳を細めて笑った。

『可愛いな幸村、まだ初心な反応だなぁ…懐かしい』
「テメェ…、どういう事だ、説明しろ!」

ぎゅう、と幸村を守るように抱きしめながら…政宗は叫んだ。
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