花文庫

□いちごあめ
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「ほら」

と渡されたのは、薄く飴で覆われた大ぶりの苺が三つ並んで串刺しにされた…苺あめ。

「エ…?」

それは先ほど幸村が通りすがりに目で追っていたものの一つだ。

「さっき、見てたろ?欲しいって顔してた。あげるよ」
「ありがとうございまする!」

幸村は満悦の笑みで、慶次の大きな手からそれを受け取った。


初夏の京都、幾年も昔から続く祭りは今年も大層な賑わいを見せている。
今、幸村は慶次に誘われ、祇園祭に来ていた。
上田でも甲斐でも祭りはあるが、土地によってその内容も賑わい方も異なる。
今日は鉾巡行が行われる前日の宵山。通りには鉾が飾られ、町衆が奏でるコンチキチンの音と商売上手の店先では祇園ちまきやら手ぬぐいやら様々なものが売られ、呼び込む人も威勢が良い。
幸村は初めて見る鉾を眺めたり、手際よく捌かれ、骨切りされる鱧を興味深く眺めたり…出店に並んでいる風鈴や風車、団子や葛きりなどに目を奪われ、慶次に手を引いて貰ってなければ、随分と前にはぐれて賑わう街を一人で物色していたに違いなかった。

「少し休憩しよう、ちょっと待っててくれよ」と、川沿いで声を掛けられ、素直に座って待っていた幸村に慶次は苺あめを差し出したのだった。

「佐助に無駄使いはせぬようにときつく言われておりますゆえ…本当に食べたいものを選ばねばと色々見ておりましたが選びがたく思っていたところです…」
「なんだいなんだい、もったいないねぇ。せっかくの祭りなんだ、そんな事気にせずに色々食べて回ると良いよ。幸村、祇園祭りは初めてだろう?」
「え、はい。京都には何度か来ておりますが…このような祭りは初めてでござる」
「祭りには京の美味しいものがいっぱい集まっているんだ。俺がいっぱい食わしてやるからさ。それならあの忍の兄さんも怒らないだろう?」

慶次はにっこりと笑って、美味しそうに食べる幸村を見てるのも気持ち良いしね、と笑い、幸村の肩を抱き寄せた。
「しかし、すでに慶次殿にはいろいろと頂いておりますゆえ…」

抱かれた肩を心地よく思いながらも、幸村は複雑な気持ちになる。
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