短いお話

□お気に召すまま
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バカップル万歳!

ある穏やかな日のアッシュフォード学園の放課後。
「ルルーシュ…」
「…スザク」
「ルルーシュ!」
「スザク!」
生徒会室に、慣れたというか、むしろ慣れたくもないのに慣らされたというか、ぶっちゃけ他所でやってくれな甘ったるい雰囲気が充ち満ちた。
見つめ合い、手と手を握り合い、ただひたすらにお互いの名を呼び合う生徒会副会長と風紀委員長。
それが始まった途端に目を逸らす生徒会のメンバー達。
ある者は己は空気だと念じ、ある者はスケブにペンを走らせ、またある者は愛の言葉を打ち消すように呪いの言葉を呟いている。
「ルルーシュの『る』は、命を賭けて愛してるの『る』だよ、えへへ…」
「スザク…そんな…ならスザクの『す』は、好き好き大好き!の『す』だぞ」
「も〜ルルーシュってば!じゃあね、ルルーシュのもう一つの『る』は、生まれ変わっても愛してるの『る』だよ!」
「スザク!今ならこの感動だけでブリタニアをぶっ壊せそうだ!じゃあ俺も…スザクの『ざ』は、将来結婚したらハネムーンはタンザニアに行こうな!の『ざ』だぞ」
おい、と生徒会雑用係…じゃなかった書記は、心の中でツッコミの声を上げた。
無理矢理感あり過ぎだろそれ。ってかハネムーンがタンザニア?いや、タンザニアはセレンゲティとかキリマンジャロとか、色々大自然が素晴らしい国だけど、ルルーシュとタンザニアってなんか違和感しか感じない取り合わせだろ、スザクなら野生の王国で百獣の王の座を賭けてライオンと戦っても違和感ないけどな…ああもう、いい加減どっか行ってくれないかな、こいつら…さっきから会長の背後から黒いオーラが出まくりなんですけど…
ちらりと目を遣れば、金の髪の元伯爵令嬢は、据わりきった目をクルクル頭の風紀委員長に向けている。
「ふ、ふふふ…スザクの『す』は、簀巻きにしてタコ殴りの刑に処すの『す』、スザクの『ざ』は、そこに直れ!土下座した首を刎ねてくれるわ!の『ざ』、スザクの『く』は、苦しみもがいて地獄へ逝け!の『く』…」
うわぁ!おっかない!
呪いの言葉を吐き続ける会長からも目を逸らす。
「まあ、今日も仲が良くてなによりです、お兄様、スザクさん」
そこへ魔の妹が乱入してきた。
「ナナリー、どうしたんだ?先に帰ってるんじゃなかったかい?」
妹命のルルーシュがサッと駆け寄り、彼女の車椅子の前に跪く。
その行動でスザクの機嫌が一気に下降するのでは、と、恐る恐る生徒会メンバー達が彼の方を見遣る。
しかしスザクは、ルルーシュの中の自分の位置を良く理解していた。
すなわち、ルルーシュの一番はナナリー、でも恋人としての一番は自分。結論、ルルーシュの心の中には同格1位が二つある。よって嫉妬する必要無し!
嫉妬に狂った猛凶犬が暴れ出すのではと心配した生徒会メンバー達は、スザクが穏やかに微笑んでいるのを見て、心底胸を撫で下ろした。
「だって、お兄様もスザクさんも遅いから…」
ナナリーが、ちょっと下唇を噛んで俯く。
「待ちくたびれちゃったんだね、ナナリー」
スザクは申し訳なさそうに、兄妹に歩み寄る。
「すまない、ナナリー」
ルルーシュも、愛しい妹の手をキュッと握った。
やれやれ、これで二人とも帰ってくれる、甘ったるい空気ともおさらばできる。
と思ったのもつかの間…
「ホントに遅いんですもの。お兄様、スザクさん、いつになったらブリタニアを叩き潰してくださるんですか?ナナリーは早くブリタニアンロール愚帝が自慢の巻き毛を毟られて、逆さに吊されて『ノォォォォォウゥゥゥ!』って巻き舌で泣き叫ぶところが見たいです」
「「ナナリー!」」
ガタガタガタッ!
二人の声と、生徒会メンバー達が椅子を蹴倒して部屋の片隅に逃げる音が重なった。
「ごめん!ごめんねナナリー!なるべく急ぐから!」
「よしスザク!今すぐエリア11のブリタニア政庁を制圧しろ!そうしたら我が黒の騎士団とお前の率いる元ブリタニア軍で共同戦線を張るぞ!なに、策は山とある。ブリタニア本国といえど半月で落としてやる!」
「きゃあ!嬉しいです!お兄様!スザクさん!ではナナリーは、ちょーっと足を伸ばして、小うるさい帝国宰相と『戦女神』だの『姫将軍』だのと呼ばれて浮かれている第2皇女をサクッとヤって参ります」
「ははは、ナナリーは昔からお転婆さんだな」
「あんまり無茶したら駄目だよ?」
「大丈夫です。スザクさんほど無茶はしませんから。ではお約束通り、勝利の暁にはお二人の結婚を認めて差し上げます。でも結婚式のプロデュースはナナリーに任せてくれなくてはイヤですよ?」
「もちろんだとも!ナナリー!全てお前に任せるよ。ただ一つだけ…ハネムーンはタンザニア!これだけは譲れないな」
「まあ!お兄様ったら!」
キャッキャうふふと、三人は去っていく。
ああ、ハネムーンはタンザニアって、ルルーシュってば本気だったんだ…
とか、明後日の方向へ思考を飛ばす生徒会メンバー達。
驚くことはない。これが最近のアッシュフォード学園の日常風景なのである。
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