short!

□蜜
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久しぶりに酒を飲みほろ酔い気分でアパートの玄関を開けた。
「ただいま〜、ケイタ〜」
と舌足らずな声で同居人に声を掛け、居間の電気を付けたら、児嶋晴登は蛍光灯の光に照らし出された光景に目を奪われる。

返事を寄越さずに俯く同居人、桐島慶太は狭い居間の真ん中で開襟シャツを両手で股の間に挟んでしゃがみこんでいた。
慶太の下半身は素肌が露わになり、細い太ももの間に挟まれた開襟シャツは晴登自身のもの。
晴登に振り向けられない顔は項から全体が真っ赤で、華奢な肩は羞恥に震えている。
尋ねずとも状況を見れば何の行為をしているのか察することが出来るが、何故自分の開襟シャツが使われているのか解らず、思わず聞いてしまった。
「何、してるんだ、?慶太…?」
「せんせぇ…、…見ないでぇ…」
羞恥に潤んだ瞳でようやく慶太は晴斗を見上げ、その性別を越えた扇状的な眼差しに、晴斗は無意識に生唾を飲み込んでしまった。




ワケあって晴斗は元教え子の桐島慶太と同居している。
慶太の担任中に彼の母親が亡くなり、自分の父親と折り合いの悪くなった慶太が晴登のアパートに転がりこんで来たのは小学五年の時。
以来三年間、時々実父の家に帰ったりするものの、
ほぼ同居の状態が続いている。
同僚たちは、プライベートまで教え子と一緒に居てやる必要はないと晴登のお人好しぶりに呆れているが、慶太との接し方が分からずつい暴力を振るってしまう父親のやり場のない悩みを理解して、晴登自身は今の状況を受け入れている。
そんな晴登を気遣ってか、慶太は何かと炊事、洗濯、掃除などの家事を買って出てくれているので今の生活に不満はなかった。
ただ気になっていることはあった。
慶太は14歳。そろそろ性的なことがリアルになってくる年頃だ。
黒目の大きい端正な顔立ちにはまだ幼さが残っているが、十分、女子好きされる容貌だ。
事実、小学5、6年を担任していた時のバレンタインデーはクラスで一番チョコを貰っていた。
そろそろ彼女が出来たか、と訊ねれば、俺そういうのまだいらないと慶太はつっぱねていた。
けれど、もう自慰は覚え始めた頃だろうと思い、もし間が悪くその場に居合わせたら黙って出て行ってやろうと想定していた。

……のだが、


想定外の事態に晴登は、今にも泣きだしそうな潤んだ瞳に見上げられ、理性が揺らいでいるのに気づくと内心焦り、努めて冷静な声で慶太に話しかけた。
「慶太?それ、俺の服だろ?何してた
んだ?」
そう聞くと、我慢の糸が切れたのか慶太の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ始めた。
「ご、ごめんなさい〜」
普段は決して涙など見せない慶太が、ひっくひっくとしゃっくりを上げてすすり泣く。
その姿に心が痛くなり晴登は膝を折ってしゃがんだ。
落ち着かせるよう、なるべく穏やかな声で慶太に尋ねる。
「俺の服でしごいてたのか?」
涙を拭いながら、慶太はコクコクと頷く。
「ごめん、先生ぇ。俺先生に触って欲しくて…けど、現実にそんなこと言えないし…だから……抜くとき先生の着た服でここ包んでやると、その気になれて……」
消え入りそうな声でそう説明する。
何故そんなことをするのか、晴登はそう尋ねるほど野暮ではないし鈍くもない。
晴登を甲斐甲斐しく世話をする慶太に好意を抱かれていると、薄々感じていたがそれが今、決定打になってしまった。
だからといって、元教え子とは言え、責任を持って保護している慶太の気持ちに応えることは出来ない。
それに、晴登自身が今の慶太の姿に心が揺らいでいることに愕然とした。
ハラハラと静かに涙を流す慶太の上半身はパジャマを着ているものの、裾からスラリとと伸びた足はまだ男らしさを感じさせないなだらかな輪郭だ

未だ股の間に覆われているシャツの中身を見てみたいという欲望をそそられる。
慌てて、教え子に向かって何を考えているんだと、自分自身を叱咤した。
兎に角、今の慶太の姿は目に毒だ。
少し外に出て、時間を置いてまた部屋に戻ろう。互いに冷静になる時間を持てば、またいつも通りの生活に戻れる、そう思い慶太に語りかけた。
「ちょっと先生そこのコンビニ行ってくるから、その間に服着とけよ」
努めて優しく言い、立ち上がると慶太に背を向けた。
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