Book special
□林檎の定理
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「これ、やるよ」
おまけに、見舞品が林檎だけというのはどうなのだろう。バスケットの中にはそれ以外、果物は見当たらない。
カルはとても不器用だ。
何故、自分が知っているのかはさておき、これはカルの小さな嫌がらせなのだろうか。
……左手を怪我している私にこれを切れと? 確かに利き手である右は無事だが、押さえるために左手は必須だ。
痛みに耐えろということか。
「わざわざお忙しい中、ありがとうございました」
さっさと帰れ、そんな意味を込めて感謝の言葉を過去形にした。
しかし、そんな気持ちを知ってか知らずか、カルは突然、懐から果物ナイフを取り出した。
「今、切れというのですか!?」
「は? いいから、林檎寄越せ」
「えっ……まさか貴方が切るつもりじゃ、」
「当たり前だろ」
何言ってるんだ、怪我と同時に頭も打ったのか?
カルはいつものように嫌みを言うが、今はそれに反応している暇などない。
どうにかして、切るのをやめさせなければ。
そうでなくては、ここが殺人現場のように赤く染まってしまう。
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