Book special

□どんな貴方でも
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−カチャ…。
前科があるためか、フラウは扉をこれ以上に無いほど静かに開けた。


「…起きて、ない、よな」
「……………」


おそるおそるベッドまで近づき、それを覗けば、目蓋は閉じられたまま。
安堵したフラウは、ベッド脇に、座り込んだ。


「はぁーー…」


溜め息を吐いてから、もう一度ベッドを覗き込む。
−色白な顔は、熱のためかほんのり赤く染まっており、整った形の唇は、少し開かれ、弱々しい呼吸を繰り返している。


「っ…」


苦しそうに歪められた表情は、何とも言えぬ憂いを帯びており、フラウの瞳を奪う。
…普通なら、心配する様な状態なのだが。
この男は、良からぬ事を考えているらしかった。


「………やべぇ」


(何だよ、こいつ…睫毛長いし、髪サラサラだし、いやそんな事はとっくに知ってるんだけど!………ぶっ倒れた挙句、こんな色っぽい顔で寝てんじゃねーよ!!襲うぞ、マジで襲うぞ、オレは本気だぞ!?ったく、オレより年上のくせに誘い受けかよ!…いや、無自覚?つーか今寝てるし……)


「タチ悪ぃ…」


悶々と、健全な男子の思考回路を巡らせるフラウを余所に、薬が効いてきたのか、先程より穏やかに眠るバスティン。
−このまま居れば本当に襲ってしまいかねないと判断したフラウは、立ち上がろうとする、が。


「っ!」
「…ん………」


司教服の袖を引っ張られ、それは出来なかった。
…主は、勿論バスティンで。


「あー、くそっ」


未だ閉じられた瞳をフラウは睨みつける。


「…人が出てってやろうと思ったのに」


最早自制心などと言う言葉はフラウの中には無く、袖を掴んでいる左手を元に戻し、整った顔に手を掛ける。


「キス……しても良いよな?」


お前が、誘ったんだから。
そう心の中で付け足し、ゆっくりと顔を近づける。


「バスティン…」


名前を呼び、二人の顔があと3cmという所に差し掛かった時。
−突如、ノックの音が響き、扉が開く。


「失礼します、ラブラドールです」
「っうぉ!」
「…あれ、フラウ?」


間一髪で上半身をぐるりと反転させる。
そこには、驚いた顔のラブラドールが居た。


「何してるの?変な格好で」
「い、いや、ス、ストレッチ?そう、最新のストレッチだ!!」
「ふーん…?」


普通ならここで疑ってもおかしくないのだが、特に気にせず、ラブラドールは部屋に入る。


「そろそろ昼食の時間だから、お粥持って来たんだけど……丁度いいや、フラウ、食べさせてあげてね」
「は、はぁ!?」
「そんなに驚かなくても…僕、これからお花さん達のお世話があるから、お願いっ」
「あっ、おい!」


−パタンッ。
反論も出来ないまま、ラブラドールは出て行ってしまった。
無理矢理お粥が乗ったトレイを渡されてしまったので、仕方がないのだが。


「…はぁー………んで、オレが」


文句を言うフラウだが、やはりご飯はしっかりと食べさせないといけないと思い直し、一度バスティンを起こす事にした。


「おーい、飯だぞー起きろー」
「んん………フラ、ウ?」
「おう、お粥、ラブが持って来てくれたから」


申し訳なさそうに苦笑しながら体を起こそうとするバスティン。
しかし、思う様に力が入らず、起き上がれない。


「あー、無理すんなって、上だけ一回起こすぞ」
「…すみません」
「謝んな。ほら、ゆっくりな」


フラウも手伝い、何とか上半身だけ起こし、予想以上に弱っている様なので、お粥は食べさせる事にした。


「っ……」


………のは、良いのだが。
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