Book special
□独占するのは、その心
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※現パロです。
※カツラギ→元塾講師
ランセ→元塾生徒
−視線とか興味とか
それなら、逸れて構わないから
せめて心だけは−………。
「…30分遅刻ですね」
「いやー、ちょっと近道しようとしたら逆に迷ってしまって」
「はぁ…待ち合わせ時間を早めにしておいて正解でしたね」
とある大型デパートの入り口では、またとあるカップルが待ち合わせをしていた。
その片方………ランセは酷く方向音痴で、遅刻は当たり前だった。
恋人のカツラギはと言うと、最初は苦労したものの、今ではすっかり慣れてしまっている。
「まぁ、此処でお説教しても仕方ありませんから、行きましょうか?」
「!…あぁ」
そのため、すぐに前を向き、店内へと足を進めるのだった。
「………で、何を見たいんでしたっけ?」
−店内に入ったはいいものの、今回このデパートに訪れたのは、ランセが『見たい物があるから』と言ったのが始まりだったので、カツラギは、何処へいったら良いか分からない。
聞かれたランセは、少し身長が高いカツラギを見上げ、笑顔で答えた。
「まだ秘密だっ」
「…はい?」
「だーかーらっ、まだ秘密なのだ!」
カツラギは、そんな事を笑顔で言われても困るだけで。
行き先が分からず困っていたというのに。
「はぁ…行き先が分からなくては困るのですが」
「私に付いてくれば大丈夫だっ、えーと、案内板はー……」
そんなカツラギを余所に、ランセは早速店内の案内板を探し始める。
もう一度深い溜め息を吐き、渋々とランセの元へ行く。
「んー…何処だー?」
あながち大きめなデパートな上、休日だからか、混雑していて、中々見つからない。
…が、カツラギはいち早くそれを見つけ、ランセに話し掛けようとする。
「…こっちです、よっ」
「うわっ!?」
しかし、ランセは全く我関せずと言わんばかりに逆方向へ歩く。
その腕を辛うじて掴み、少し強引に引き寄せる。
「全く…」
「す、すまん」
「いえ、慣れていますから?…でも」
「?」
「手だけは繋がせて貰いますよ?保険に」
そう言って、ランセの左手に、己の右手を絡ませる。
少し戸惑ったランセだが、すぐに案内板へと視線を移す。
「えーと……3階だ」
「3階?エレベーターを使わなくてはいけませんね」
「使え…なさそうだが」
目的地は3階…なのだが、利用者で混雑し過ぎて、エレベーターの入り口さえ見えない。
二人は少しの間沈黙の後、顔を見合わせ、溜め息を吐いた。
「つ、疲れた…」
「情けないですねぇ、私より若いのに」
−結局。
エスカレーターも同じ状態だったため、人気の少ない階段で上った。
そこまでは良いが、張り切っていたランセが疲れ切っていた。
「さ、3階って遠いな…」
「はぁ………運動不足過ぎなんですよ、貴方」
「いや、そうでも無いと…」
「あぁー!あれ、先生じゃない!?」
そして、突然聞こえた声に遮られ、その方を振り向くと…
「やっぱり!カツラギ先生、こんにちは!!」
塾講師だったカツラギの元生徒らしき女性が4人。
カツラギは笑顔で対応する。
きゃっきゃと話す4人に、懐かしみを帯びた笑みで話すカツラギ。
「…………」
ランセは乱れた呼吸を整え、あまり離れていない所で、何となくその光景を眺めていた。