BOOK(進撃9

□気付いて、お願い気付かないで
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夏。死ぬほど熱い部屋の中、私は椅子に座るリヴァイを後ろから抱き締めていた。

もちろん彼は暑いだろう。抱きついた瞬間どけ、と言われたし、先程も腕を掴まれて離そうとしてた。

でも私が諦めずに抱きついていたら、そのうちリヴァイは構ってくれなくなった。

…寂しい。





「…ぶー」


「うるせぇ暑苦しい邪魔」


「なんでいっぺんにそんな酷い事言えんの!!」


「黙れ豚。どけ」


「なんでそんなイラついてんのーー!!」


「てめぇの声がうるさいからだ」


「なんでそんな事言うのぉぉぉぉ!!」




「マジでうるせぇ…」




あ、やばい。なんか本気できれてるっぽい。

此処は退いておこうかな。

リヴァイに嫌われたくないし。

そうして素直にどくと、リヴァイは相当暑かったのかジャケットを脱いでしまった。

…まあ確かに暑かったのは暑かったけどさ。


…てかまあ。私がリヴァイに抱きつくのは理由があるんだ。ちゃんと。

だって、好きだから。

抱きつくのは所構わず何処でも出来る。

冗談で好きなんかは言える。


…――でも。

本気で言おうとしたら、ついブレーキがかかってしまうのだ。

このままの関係でいれなくなるかもしれない。

そんな想いが頭の中でぐるぐる回る。







「…リヴァイぃー」


「なんだよ」


おおう。不機嫌だ。

…はぁ、なんでだろう。どうして私はいっつもこうなんだ。

素直になれなくて。それでいて会いたいって気持ちには従順だからすぐに会いには行ける。

でも、肝心の想いを伝える事は敵わなくて。


「…暑い」


「そのまま溶けて死ね」


「こんな温度で人間が溶けれるか」


「大丈夫だ。お前なら死ねる」


「何も大丈夫じゃないよ!!リヴァイ酷いぃ」


「…ハァ」



あ、ため息つかれた。

うぅ…私、面倒くさい女だって思われてるんだろうな。

なんでいっつもこうなの。

私はリヴァイの事が好きで、ただそれだけの理由で会いに来てるのに。

でもリヴァイは私のそんな気持ちに気付いてない所か、簡単に「仕事の邪魔だ」やら「出てけ」やらの言葉をぶっかけてくる。

そりゃあ、私も邪魔かなあとは思うけれど。

女の子が遊びに来てるんだよ?ちょっとくらい反応してくれてもよくない?


いい加減、気付いてほしい。





「…おい、お前」


「なんだよぅ」


「気持ち悪い声出すな。気持ち悪い。おい気持ち悪い奴、俺がこの前預けた報告書は持ってきたんだろうな」


え、気持ち悪いどんだけ言ってんの?

…そんなにリヴァイは私の事嫌いなんだ…。

気持ち悪い奴か……。…はぁ…。



「…」


「…おい、聞いてんのか」


「…ごめんねリヴァイ…私…リヴァイの事全然考えてなかったよね…」


「は?急に何言ってる。というか書類を」


「あぁ書類ね…。はい、持って来たよ…じゃあ…」


あらかじめ持ってきていた書類をリヴァイに預ける。

彼は私が持ってきているとは思わなかったのか、少し驚いているようだ。



「…私いっつもリヴァイの邪魔ばっかしてて…。リヴァイの迷惑もうちょっと考慮するべきだったよね」


「…まあその通りなんだが」


「うっ。…はぁ…リヴァイのばか…リヴァイに一生恋人できませんように…」


「おい、なんだそれは。俺への嫌がらせか?」


「…。私はこんなに貴方の事を愛してるって言ってるのに…酷いわ…!」


「冗談も顔だけにしねぇと撃ち殺すぞ」


「ぶー、冗談って分かったんだ」


「寧ろそれ以外になにがある」


「あははー、…、そりゃ告白でしょ、愛の」


「お前には一番似合わねぇ言葉だな」


「…はーあ。脈なしかぁー。…私の恋もそろそろ潮時だよねぇ」


「…」


今まで書類に何か書き込んでいたリヴァイの手が止まる。


「…オイ、どういう意味だそれは」


「え、だから、私の恋も終わりかなって」


「誰にしてた」


「え…言えるわけないじゃん」


だって貴方だもん。

恥ずかしくて言えるわけない。



っていう私の心境とは裏腹にリヴァイは不機嫌に私を睨んできた。


「…言え」


「む、無理だっつってんじゃん!」


「言わねぇと今ここで蹴る」


「恐っ!!でも絶対言わないっ!」


…はあ。私は何を強情に…。

言ってしまえばいいじゃないか。この鈍感男に。

そしたら全て楽になるのに。


「よし、今からそっちに行くから待ってろ」


「きゃああああ待って待って!!本当に待って!!」



席をガタン、と立ったリヴァイを、それはもう必死に止める。

私の思いが通じたのか、リヴァイは嘆息しながら座りなおした。

頬杖をついてじっとこちらを見詰めている。


「…あ、あのね。誰とは言わないけどね…」


「言えよ」


「私の好きな人、は…。………私なんかには、勿体ない人なんだっ」


「は?」


「だから、私その人の事応援してあげたいんだ。仕事も、恋愛も」


「…そんなに好きなのか」


「うん…。…だから…ごめんねリヴァイ。言えないけど…。……とりあえず私、リヴァイの邪魔にならないように出てくね…」







そう言って扉を開けた。


瞬間。












「…待て」








リヴァイが、私の腕を掴んでいた。

窓の風で、書類がぶわっと広がる。

それを見てうわあ、リヴァイが怒るだろうな、なんて思ってたのも束の間。

目の前には、超ドアップのリヴァイ。

心臓がこれ以上ないくらい激しく動く。





「え、…あ、あの…」


「邪魔じゃねぇから。…だから、此処に居ろ」


「…へ、あ…、」


「俺は、……お前が居ないと、仕事が捗らないらしい」








え…?


それってどういう、意味…??

捗らないらしい…?

どうして疑問形なの…?



心臓が、鼓動が大きくなっていく。

ああ、リヴァイに聞こえちゃう。

駄目だ、抑えて私。お願い。



「…いい加減、気付け馬鹿」


「え…、リヴァイ、今なんて…?」


「なんもねぇよ。つか、ぼーっと突っ立ってないで書類拾うの手伝え。…ったく疎ましい風め」


「あ…はは、それはなんか逆恨みというか」



なんて言いながら、リヴァイの背中を見ながら書類を拾う。



…もしかして。


リヴァイも、私の事。






「…リヴァイ?」



「なんだ」





―――なんてね…。





「ううん、なんでもない!リヴァイ大好き!」


「は?急に何意味の分からん事を…」


「あはは!リヴァイ、お茶しない?」


「だから唐突なんだよ話題の切り替えが」


「リヴァイ、リヴァイ!」




「…うるせぇ」

















(気付いて、お願い気付かないで)

(もう少しだけ、あと少しだけでいいから)

(貴方の気持ちが分かるまで)

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