BOOK(進撃9

□その笑顔が見たいから
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僕たちは知らない。




世界が、どう動いているのかを。





それでも、僕たちは必死に生きなきゃいけない。

どうして生まれ落ちた場所がこの時代なんだろうか。

ずっと後に生まれて居れば、もしかしたら人類は巨人に勝利し、完全な自由を手に入れていたかもしれない。

それなのに僕はこの時代に生まれた。この、何もかもが残酷で現実的な世界に。

仕方がない事なんだ。誰だって自分が生まれる場所を選べる訳じゃない。

…それでも、やっぱり僕は臆病もので。

エレンやミカサのように強さをもった人間が、どうしても眩しく見えて。

僕なんかはやっぱり、非力な人間って思い知らされて、最終的には死んでいく。


…死んで、。




「アルミン?」



ハッとなる。

考えごとして廊下を歩いていたので、周りが見えて居なかったようだ。

誰かに話しかけられて、急いで横を見る。

あ…、。



「…春菜」



「うん」



その人はにっこりと笑う。


彼女もまた、エレン達と同じように強い意志を持った人。

生きる為に、人類の為に精一杯命を捧げている人。


僕なんかには眩しくて。


その笑顔が、まともに見れなくて顔を伏せた。




「どうしたの?」



「…ううん、なんでもない」



「…嘘だ、なんか考えてたでしょ」



だって私が何回呼びかけても、…そう言って彼女は頬を膨らませる。

…整った顔立ち。長いまつ毛。僕が見た女の子の中で一番…、綺麗だ。

それでも想いを告げる事が叶わないのは、この世界では死ぬことは簡単だということ。

いつ死ぬか分からないこんな現状で想いを伝えて次の日に死んでいたら、僕はどうしたらいい?

そんなの嫌だ。耐えられない。

…だから僕は臆病者。

未来を見る事が怖くて。

予想した未来に恐怖を覚えて。

現状を変えることが怖くなった。


彼女の所為だ。


彼女の存在が、僕に恐怖を与えている。

春菜の笑顔はとても安心する。見ていれば心が安らぐ。

だから彼女の笑顔を守りたいと思う。死なせたくないと。

でも、僕が死んだら彼女はもう、守れない。

だから怖い。死ぬのが怖い。





―――なんて、大層な事言ってるけど。

本当は、僕なんかじゃこの人を守れないくらい分かってる。

自分の力量は彼女よりも遥かに劣っているし何より…。






「おい、春菜」



「あ、兵長!」



「…この書類を今日までに書いて提出しろ。いいな」



「はい、分かりました」



「それと、そこのガキ」



「え…っはい」



「…エルヴィンが呼んでる。遅れるなよ」



「はい!」




それだけ告げると、兵長は靴の音を響かせて行ってしまった。


僕には分かる。

リヴァイ兵長は、春菜の事が好きなんだ。

口に出してこそいないけれど、新兵の彼女がリヴァイ兵長のお気に入りになったのは結構な範囲で広まっている。

もちろんそれは彼女がリヴァイ班の一員という事もあって、だと思うけど。

…だから。この僕の想いは叶わない。


彼女を守りたいと思う気持ちも。




(兵長には、敵わないよね…)




「アルミン」




「!」





だけど。


僕は生きる。

彼女が居てくれるから、彼女の笑顔を見たいから。







「生きてね」








もしも明日、彼女を庇って死ぬことになっても。






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