大好き、でした。

□ただの幼馴染みだよなんて言い飽きてる
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とある日の事だった。

春菜が突然、僕を連れてソウリュウシティに行こうと言いだしたのだ。

僕は当然即OKを出した。こんな機会は二度もない。

兄弟たちにも了承を得たし、何より、春菜が僕だけを誘ってくれたことが嬉しくて。


10月の風は、もう涼しいから寒いに変わっていた。

長袖のTシャツにパーカーという薄着の彼女に、僕が来ていた秋用のコートをそっとかける。

電車の駅のホームでぶるぶる震えていた春菜は、僕とコートを交互に見て、にっこり笑った。


「ありがとう」


ああ、その笑顔だ。

その笑顔に、幾度となく僕の心は奪われてきた。

胸がしめつけられる。今すぐ抱き締めてしまいたい。






だけど。






「どういたしまして」





それが叶わないのが、幼馴染みという鎖なんだ。












電車で30分のソウリュウシティ。

つくと、春菜は僕のコートを羽織りながら、電車から飛び出した。

大きな自然。少し肌寒いけれど、気持ちの良い風。透き通る空。

日頃の疲れが癒されていくようだった。

少し歩いて、大きな花畑へと出る。


そこで、春菜はしゃがんで何かをしていた。

僕は近付いて彼女の手元を覗き込んだ。


花の冠…?


春菜が僕の存在に気付き、花の冠を後ろへ隠す。


「まだ途中なんだから、ダメ!」


そう言われて、僕は花畑から追い出された。

…一体、何故花の冠なんかを作っているのだろうか。

もしかしてお土産とか?

勝手に納得した僕は、大きな草原のど真ん中に腰を落とした。

誰も居ない。

本当に、心の中から休める場所。

リフレッシュして行くのが、体の中から分かった。

春菜に感謝しないと。

両手を後ろへつき、胡坐をかく。

すると、頭の上に何かが乗った。

顔だけ動かして上を見ると、笑顔の春菜が僕を見下ろしていた。

頭の上には、さっきの花の冠。

よく見れば、さっきよりも花がカラフルになっていて、量も増している。

へえ…上手だな。


…。


…って、



「これ、僕に?」



「デントに!いっつもお世話になってるし、そのお礼という訳で」


僕の横に腰を落とした彼女を横眼で見詰める。

春菜がこんなに近くに居るのに、こんなに爽やかな気持ちなのは初めてかもしれない。

何時もなら、他の男の話やらで嫉妬したり、そうでなくともドキドキが止まらなかったり、色々大変だったりするんだけど。

こんなに気持ちが穏やかで、落ち着いているのは初めてかもしれない。



「ねえ、デント」



ドキ



「うん?」



ああ、やっぱり駄目だ。

その声で。その唇で。

名前を呼ばれると。





「楽しい…かな?」





僕の体温はまた上昇していくんだ。





「もちろん」





僕はそう答えた。

楽しくない訳がない。

君と居れば…例え地獄だって耐えられる。







いつの間にか、後ろにはアイリスが居た。



「あんた達、ホントにお似合いねぇ」


呆れ顔で、そう言った。


「アイリス!居たんだ」


「居たわよ。こーんないちゃいちゃなカップルを見たんじゃ、モチベーションも下がるけどね」


冗談混じりなその悪態に、春菜は苦笑して見せた。

けど僕は、その会話には入れないで居た。

正確には、入れなかった。返事を返したくなかった。




僕たちは決してカップルなんかじゃない。

なろうとしてもなれないんだ。

見えない鎖が、僕を繋ぎとめる。

だから、そんな言葉を聞くのは辛いだけ。


止めてくれ、アイリス。



これ以上、僕を惨めにさせないで。










「で?いつ付き合う予定なのよ二人とも」





にやにやと笑いながら僕の肩をつつくアイリスに、僕はにっこりと笑って返した。

















予定は未定




(いつかそんな日が来るのだろうか)


(期待なんてするんじゃない)




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