大好き、でした。

□いちばん近くできみの恋を見てきたんだ
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「よーっし!また新しい恋探すぞー!」


急に春菜が立ち上がってそう叫んだ。

品の良いレストランでは、こんな声なんて目立つ程度だが、僕は慌てて春菜に降りるよう促す。


「えへへ、ごめんごめん」


「全く…、春菜って昔からそういう所あるよね」


「お、さすがデントー!私の事分かってるじゃん」


この生意気な女の子は、僕の昔からの幼馴染み。

今日は、なぜか彼女に呼びだされてレストランにきていた。

その内容は、失恋した、とのこと。だから慰めて欲しいんだろう。この僕に。

幼馴染みである僕に。

近すぎる距離も、困ったものだよね…。


彼女は、今回の失恋が初めてな訳ではない。

もう何回も何十回も恋をしては、失恋を繰り返している。

いい加減諦めなよ、と助言をしてしまった時もあるが、その時、春菜は決まってこういうのだ。

「もしかしたら、運命が待ってるかもしれないでしょ」、と。

…運命?はっ、そんなの、僕は呪いたいくらい疎ましく思っているさ。



その運命の所為で、僕は春菜の傍にいる事ができ、また、幼馴染み″なんだから。

僕がこの感情をどれだけ我慢しているか、どうせ君には分からないんだろう?

この、おかしくなってしまいそうな感情を。

…それを、春菜にぶつけるなんて、勝手で、あまりにも彼女が酷過ぎる。

だから。

幼馴染み同士は恋なんて出来ない。

いや、しちゃいけないんだ。




「まぁ、幼馴染みだからね」


「えへへ、だね!」




嬉しそうに笑う春菜。

それはどういう意味で笑っているの?

僕と幼馴染みで嬉しいって事??

勘違いしてしまいそうになるのは、きっと想いが強すぎる所為。

閉じ込めておかなくちゃいけない。

決して幼馴染みではいけない、その先を行くのでは無くて。

この、近くて遠い距離を保っていなくてはならないから。




「あのねあのね、聞いて!この前ライモンシティ行ったらね、偶然アーティさんに会ってね!」


「うん」



ああもう、うんざりするよ。

こんな近くに僕という人物が居るのに、君の眼中にはないんだろう?

それが無性に虚しくて。切なくて。苦しくて。


こんな想いをするのも、彼女と幼馴染みであったから。




話しは変わるけれど、僕には大勢のファンがいると自覚している。

自惚れなんかじゃなく、事実そのものだ。

そしてまた、春菜も僕のファンであると、昔言っていた。


だけど、普通のファンと春菜が、徹底的には違うのは。


僕を見ていないということ。


いつも恋、恋。 僕には関心さえなくて。


それがどれだけ辛いことか、君には分からないだろうね。



…けど、少し嬉しい気持ちだってある。

こんなに近いということは、なんでも話せる間柄だから。

こういう恋関連の事を話してくるのだって、僕に完全に心を許してるからだろう。



何時だって。


何時だって、彼女の隣には僕が居た。


昔も、今も。


それだけは変わって欲しくない。




「?デントー?話聞いてる?」
































それだけはどうか、変えないで。神様。




「うん、聞いてるよ」










それだけは、わらないでいてください。

(何も望んだりはしないから)

(せめて、君の隣に居させてください)











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