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□わん!
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世の中、残念ながらそう素敵な出会いは多くない。



だから皆、それを自分で作ろうと合コンや出会い系サイトになど手を出してしまうのだ。

私は絶対にやろうとか思わないが。
だって、こんな顔じゃ誰も相手にしてくれないでしょ。
それが現実ってもんよ。

今は素敵な花屋をやっている訳だが、正直私には似合わないと思っている。

自分が花が似合う顔などとは1ミリも思っていないし、控えめに言っても可愛くもないし、悪い顔でもない地味な顔だからだ。

だからか、私は一回も異性にもてた事はない。

それを苦とも思わないのが悲しい性だが、それなりに充実している人生だからよしとしよう。



私は、俗に言うオタクと言う奴である。

可愛い美少女には目がないし、イケメンには憧れる。

もちろんアニメやゲームなどにもぬかりはなく、ギャルゲやエロゲにだって手を出している。

だからリアルの男性になんてモテるはずがないのだ、この私が。

いや、モテるどころか彼氏だってできる訳がない。

断言できるだろう。

その現状に、私は別に不満を持っていないし、不都合だってない。

だから、出会いなどなくてもいい。

私は、自分のしたい事ができればそれでいいのだから。






「春菜ちゃん、今日はこれでおしまいよ」



「あ、はい。じゃあお先に失礼します」



終わりの時間を知らせる時計が、ぼーんぼーんと古さを感じさせながら鳴った。

私は、この花屋の仕事以外にもう一つバイトをかけもちしている。

とあるレストランの店員である。

別に食器洗いでもよかったのに、なぜかメニュー運びをやらせらている。

全く、酷い不運だ。

たまたま人が足りないだけで人前に出て喋る仕事なんて。

アウトドア派のコミュニケーション能力舐めんなよ!

ニートが立ち上がった力舐めんなよ、正社員共が。けっ。


外に出てみれば、空は快晴だった。

冷たい風が身を縮ませる。

こんな日には…新発売のギャルゲ買いまくらないと。

そんな決意をしてから、歩き出した。






























バイトが終わった時間は、夜の9時だった。

私が働いているレストランはなんか変なおっさんが来ることが多い。

女性店員が接客に来ると、妙に鼻の下を伸ばして、おさわりを要求する。
いやいや、お前らバカか?
ぱふぱふやらおさわりがしたいならキャバクラに行けよ、って言いたい。

ま、実際、悲しいのか嬉しいのか私なんかはその被害にあった事なんて1度もないが。
あるとすれば、上司の美兎さんとか、最近入った可愛い新人とかだ。
内面が違うだけで、こうも変わって来るものなのか…。



そんな些細な事を気にしない私は(というか気にしてられない)とりあえず遅い夕食の為のおかずを買いに、大きなスーパーマーケットへとやってきた。

ここは安くて衛生面もきちっとしているので、常に大勢の人が買いに来ている。

私は適当におかずを選んでカゴに投げ込み、お菓子売り場へと向かう。




さて、何を買おうかな、左へ進むと大きな白が目に入った。

ん?と思って顔をあげる。



…。皆様。


聞いて驚くなかれ。



そこにはなんと、白いコートを着た大人の男性が必死にお菓子を選んでいたのです。



…えええ。

…まじすか?


そんな、見た目20代くらいのいい大人が、めっちゃ必死にお菓子選んでるとか。

うわっ、めっちゃイケメンじゃん!

なにあの肌の白さ!しかも整った顔立ち!

アニメか!

とツッコミたくなる衝動を抑え、ちらちらと観察を続ける。

…うわあ…、体格もいいし、ほんと、こういう人がモテるんだろうなぁ…。

まあ私には関係のない話だと思うけど。

しかし立ち方カッコイイな、オイ。

かっこいい人は何をやってもかっこいいんだろう、きっと。


そのうちじーっと見てしまっていたのか、白いコートを着たその人は、私の方へと視線を向ける。



1秒、

2秒、


…3秒。




「…っ」




びっくりして、思いっきり目を逸らしてしまった。

えぇ!?目、目あったよね今!3秒くらい!

うわ、やば…。

見られてたのばれてたのか…。

恥ずかしくなって顔を背けたまま、離れようとすると、その男の人がねえ、と話しかけてきた。


「うわっ」


「…。うわって何?僕が変質者みたいに」


「え、ちがっ、そういう訳じゃ、」


一人称僕なのか。
いい大人が可愛いな、ちくしょう。


「ねえ、君さ」


「は、はい」


「今、僕に見惚れてたでしょ。違う?」


「え…」






な、な、なんだコイツは!

ナルシストか!ナルシなのか!

それってつまり、自分に自信があるって事で言ってんだろ?

うわわ、顔かっこいいけど中身とんでもないよ!

やっぱりリアルは信じられない、信じるは2次元の美少女or美少年でしょ!



「君!」


「はい!」


「話聞いてなかったの?」


若干不機嫌そうに首を傾げるリアルの男性の方。


「あ、聞いてました!」


ちょっと大きめの声になってしまったことに自分でびっくり、相手の方もびっくり。

でも、意外とそれがよかったのか、イケメンさんは、じゃあ言って?と口元に孤を描いた。


ど、どどどどうしよう、ドラ〇もん。

いや違います。私のびたくんじゃないです。


てかそんな事どうでもいい。

これ素直に言うべきなんだろうか?

でも、見惚れてたのは確かだし、ここでいいえ見惚れてませんとか言っても可哀そうだよね。



「…若干、見惚れて、ました…」


「だよね。じゃあさ、後で相手してあげるから、僕の頼みごと聞いてよ」


相手?

相手って何?

遊び相手的な?

いや、バカか。今時そんな子供みたいな。



でもまあ、此処で断っても更に可哀そうなんで、私は意味が分からないながらも頷いた。

すると、男性は口元の笑みを深め、私にメメモ用紙を渡した。

ん…?なにこれ、携帯の番号…?


「もうすぐ此処にね、黒いコートを着た僕そっくりの奴が来ると思うから、そいつに、クダリは家に帰ってる″って言っといて」

クダリ…?

クダリってあれだよね、ギアステーションに居るサブウェイマスターの事だよね?

確かそのクダリって人はすごい女好きって聞いてたけど。

ま、私は噂で聞いただけで、本人を見た訳じゃないからどんな人か分かんないんだけどね。


「はぁ…分かりました」


「で、それ僕の携帯の番号。かけてくれればいつでも出るし、呼んだら行くから。じゃあね」


それだけ早口に言うと、彼は足早にレジへと行ってしまった。

…なんか、結構強引な人だなあ。

ええと、とりあえず、ここに黒いコートを着たさっきの人とそっくりさんが来るはずだからその人に話しかけて、クダリは家に帰ってる″って言えばいいんだよね?

…さっきのイケメンさん、クダリって人と知り合いなのかな?

呼び捨てにするくらいだから、きっとしたしい位置関係にあるんだろう。


なんて考えこみながら歩いていると、黒いコートをきたさっきの人のさっくりさんが店の中をきょろきょろと見回していた。

なんとなく、表情は焦っているように見せた。

てか、本当にそっくりだな!この人もかっこいいし。

…こんな人が今までいたなんて、全然知らなかった。

ああ、揺れては駄目よ、春菜!

貴方には2次元という大切な世界があるのだから。


…なんてしてる場合じゃない。

あの人に伝えないと。


私は、もう、本当に勇気を振り絞って、その人に話しかける。
あ?ニート舐めんなよ。ニートじゃないけど。


「あの!」


「、はい?」


うっわあ…振り向き姿まじ萌え。

かっこいいかっこいいかっこいい!

世の中捨てたもんじゃないよ、パトラッシュ。


「えーと、もしかして白いコートの人探してます、か?」


「!」


そういうと、黒いコートの人は体ごと私へと向き直った。


「その人物を知っておられるのですか?」


「え、まあ…」


「何処に行きましたでしょうか」


「…さあ…」


「…そうでございますか」

す、すごい食い付いて来たな、この人。

私が誰かも聞かないって、相当切羽詰まってるんだろうな。

て、用件言えてないよ、私!

言わなきゃ。


「あの!そ、その人が、貴方に伝言を、って…」


「伝言?」


「えと、クダリは家に帰ってる、って」


「…。………えぇ。分かりました。ありがとうございます」


黒いコートの人は、私にお辞儀をして走り去ろうとした所で止まり、また私に向き直った。

そして、先程の白いコートの人と同様、白いメモ用紙を貰う。

そこに書いてあるのはやはり…、携帯の番号。

あの、私、困るだけなんですけど…。

かっこいいのは分かるけど、それってやっぱりファンも多いって事で。

しかもこの人、目立つ格好してるし。なんかの仕事だと思うけど。


「お礼と自分の名前は後日でよろしいでごしょうか。すみません、急いでいるもので」


またまたそれだけ言って、さっと店を出て行ってしまった。



…。















ほら、だから言っただろう。

世の中、素敵な出会いは少ないと。
 

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