BOOK

□曖昧現実逃避
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私は所謂、失恋というものを味わった。





ふーん、なんだ、こんなものか。

思ったほど大したことないな。





小説やドラマで何度も見た。

女優が泣いているのを何度も。

(まあ、所詮あれは演技だけど)

なんというか、あれだね。

確かに喪失感はあるよね。

好きだった人が居なくなっちゃって。

だけど、それだけだ。

他は何も感じないし変わらない。

痛みだって不思議とないんだ。



でもさ、お日さまだってさ、一日くらい休んだっていいんじゃないの。

毎日毎日登ってきて、明日は必ず来るんだって思わせて。

どうしてこう、もっと、なんていうの。

人間に希望を与えれないのかな、自然って言うのは。

今日も、天気予報を裏切って見事に雨だし。

別に雨が嫌いって訳じゃあないんだよ。

嫌いじゃないけどさ、今日くらいは降らなくてもいいんじゃない?

なにも、悲しい事があった訳じゃないんだし。

お空さんが泣かなくても。

とか思ってしまう私は電波なのだろうか。




まあいっか。


折角の雨だし、散歩とかしてみよっかな。



私は傘を持って外に出てみた。


雨は小雨。


曇った天気が、どんよりと私の心を侵していく。


どうしてこんなにテンションがひくいのか自分でも分からない。


神様いるなら今すぐ晴れにしてよ。


そして時々お日さまを休ませてあげなよ。



私の願いはそれだけなんです。


たったそれだけの願いもかなえてくれないの。


ねえ、



ねえ神様。







「あ」


「あ、おはよう」







途中で通行人に会った。

なんて言い方は他人行儀かな。

正確にはデントさんに会いました。

今日もにこにこ通常運転。

いいなあ、デントさんは、なんて言ってみれば、どうして?と聞き返される。

だって、と私は言い返した。




「だって、?」


あれ?おかしいな。

言いたい言葉が出てこないや。

うん、まあいい。

デントさんが不思議がるからもう言わない。

私はもういいです、と口を閉じた。




「あはは、春菜ちゃんは面白い子だね」



「そうですか。よく言われます」



「だね。よく言ってるもんね」



「もちろんです。デントさん以外に居ませんよ」



「はは!それはちょっと嬉しいかも」



嬉しい?

え、嬉しいの?


デントさん、それ本気なの?


私勘違いしちゃうよ?

妄想しちゃうよ?



貴方は私の事好きだ。

間違いなく好きだ。

ほら、素直になれないだけんでしょう?

もっと言っていいよ、素直に好きって言っていいんだよ。




雨は、いつの間にかやんでたり。




「あ、春菜ちゃんって恋人居るんだっけ?」


「全く居ないです。今は絶賛フリー中なうです」


「なに、それ」


ぷっと吹き出しながらデントさんが笑ってくれた。

わあ、ウけた。

デントさんが笑ってるよ。

日本語としておかしいんじゃない、とかいうデントさんの言葉も耳の穴を右から左へするりと通り抜けてったよ。



「春菜ちゃんは可愛いのに勿体無いなぁ」


「そんな、デントさんの…、」





あれ?


何を言おうとしたの、今。


え、やだ、言いたくない。

うん止めよう。

なんかきもい。

頭おかしくなりそう。




「…僕の?」


「…デントさんに比べたら全然っすよ」


「なんで男の僕と比べるのさ」


「や、デントさん可愛いから」


「…僕としては素直に喜べないけど」


苦笑するデントさんになんでだろう、と首を傾げる私。

可愛いって言葉なら、誰でも嬉しいんじゃないの?

ああ、そっか、デントさんは男だもんね。

だからかっこいいのほうがいいんだね。



「デントさん、かっこいいです」


「急だね?」


「あ、すいません」


「いいよ。許してあげる」


「え、私の謝った意味なに?」


「さあ、僕には分かんないなぁ」


「でも嬉しいですか?」


「でも嬉しいね」


「じゃあ私の事嫌いですか?」


「嫌いじゃないよ」


「じゃあ私の事好きですか?」


「嫌いじゃ、ない」


「好き、ですか?」


「…嫌いじゃ、ないんだ」


















貴方の横に居るのは、きっと天使なんでしょうね。

紛う事なき綺麗なキレイな純白の天使なんでしょうね。

可愛いですね。私なんかより、ずっと。

傘も相合傘してさ。

楽しそうだね、随分と。

私と目があったらニコって笑ったり。

そっかぁ、そういう所が可愛いんだ。

私には到底できないね。

や、別にしたくもないけど。

だってデントさんって、私がいくら笑いかけても惚れてくれないし。

好きですかって聞いても嫌いじゃないって言うし。




…痛い。

いたいいたいいたいよ。

お母さん、胸が張り裂けそうなくらいいたいよ。

苦しいよ、切ないよ。

息が出来ない。



好きだ、まだ、大好き。

諦めれる訳ない。

貴方の事が、好きなんだもの。

大したことなくなんかない。

この痛みは、この苦しみは、


間違いなく



(恋の痛み、…)



泣きたいよ。

すっごく、泣きたい。

一人って寂しいよ。


泣いても良いですか?


昨日みたいにおお泣きしていいですか?


また慰めてくれる?




ねえ、ねえ神様。



慰めてね。











ああ、私はまた奈落の底に落ちちゃった。

また落ちちゃった。

落としたのは、誰だっけ。

あー、思い出した。



散歩のときにあった通行人かあ。












何時の間にか、雨はこれでもかという程強く降っていた。






















曖昧現実逃避



(これは失恋って言うのかあ、へえ、思ったより、うん、結構、すごく、)


(辛いかも、しんない)

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