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□悔しかったら好きって言ってごらん
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クダリは何時ものように言う。
クスクスと、不気味に笑いながら。
「僕、春菜の事好き!だぁーい好き!」
こんな言葉、私は嘘だって分かってる。
だけど、嬉しくないのかと聞かれれば返答に困るのも事実だ。
クダリなんて嫌い。
何時も私の嫌な言葉を言う。
だから私は、軽くあしらう振りをするんだ。
「どうせまた冗談でしょ」
「うん、冗談!」
屈託のない笑顔で私の横に座る。
どうせまたサボってきたんだろう。
幸せそうな表情で珈琲を啜っている。
「春菜は嬉しくないの?僕が好きって言ってるのに」
は、なにそれ、どんだけ自信過剰?
別にクダリの事なんかもう、好きじゃない。
「あのね、クダリには彼女が居るんだからそういう事言わない方がいいよ」
「なんで?なんで言っちゃ駄目なの?僕の彼女つまんないんだもん!」
「だからクダリ、そういう事はあんまり、」
「そういう春菜にはカッコイイ愛しの王子サマが居るじゃん」
ズキ。
確かに私は、愛しの王子…もとい、上司であるノボリさんと付き合っている。
だけどいざクダリからそういう事を言われると結構傷つく。
だって私は、クダリの事が好きだったのだから。
何も言い返せず、言葉を濁していると、クダリが私に顔を近付けた。
「僕、本当は知ってる。春菜、僕の事好きだったんでしょ?だから春菜は僕の可愛い可愛い彼女に嫉妬してるんだ」
厭らしい程の笑みを浮かべて、私にそう言ってくるクダリ。
ああ、本当に嫌い。
クダリはいつも、私の嫌な事ばかりしてくるのだから。
「嫉妬なんてしてない」
「うそ!」
人差し指を私の口元に当ててくる。
…本当にキザな奴だ。
クダリの正体を知らなかったあの頃の私は、こんな目にあったら心臓が跳びはねるだろう。
だけど、クダリは何時も女の子と浮気してる。
彼女が居るって言うのに。
「…私には、ノボリさんが居る。クダリが自分で言った事だよ?」
「そうだけど、僕の事まだ好きでしょ?」
驚いて目を見開く。
率直に、笑顔で聞いて来た。
答えれなくて驚いていると
「だからね、そんな春菜が僕は大好きなんだ!」
「…それも、冗談?」
クダリはにっこり笑う。
「どうだろうね?」
(春菜が悪いんだ)
(ノボリなんかと付き合ったりするから)