BOOK

□悔しかったら好きって言ってごらん
1ページ/1ページ






クダリは何時ものように言う。

クスクスと、不気味に笑いながら。



「僕、春菜の事好き!だぁーい好き!」



こんな言葉、私は嘘だって分かってる。

だけど、嬉しくないのかと聞かれれば返答に困るのも事実だ。


クダリなんて嫌い。


何時も私の嫌な言葉を言う。


だから私は、軽くあしらう振りをするんだ。




「どうせまた冗談でしょ」



「うん、冗談!」



屈託のない笑顔で私の横に座る。

どうせまたサボってきたんだろう。

幸せそうな表情で珈琲を啜っている。



「春菜は嬉しくないの?僕が好きって言ってるのに」



は、なにそれ、どんだけ自信過剰?


別にクダリの事なんかもう、好きじゃない。



「あのね、クダリには彼女が居るんだからそういう事言わない方がいいよ」


「なんで?なんで言っちゃ駄目なの?僕の彼女つまんないんだもん!」


「だからクダリ、そういう事はあんまり、」


「そういう春菜にはカッコイイ愛しの王子サマが居るじゃん」



ズキ。

確かに私は、愛しの王子…もとい、上司であるノボリさんと付き合っている。

だけどいざクダリからそういう事を言われると結構傷つく。

だって私は、クダリの事が好きだったのだから。

何も言い返せず、言葉を濁していると、クダリが私に顔を近付けた。


「僕、本当は知ってる。春菜、僕の事好きだったんでしょ?だから春菜は僕の可愛い可愛い彼女に嫉妬してるんだ」



厭らしい程の笑みを浮かべて、私にそう言ってくるクダリ。

ああ、本当に嫌い。

クダリはいつも、私の嫌な事ばかりしてくるのだから。


「嫉妬なんてしてない」


「うそ!」


人差し指を私の口元に当ててくる。

…本当にキザな奴だ。

クダリの正体を知らなかったあの頃の私は、こんな目にあったら心臓が跳びはねるだろう。

だけど、クダリは何時も女の子と浮気してる。

彼女が居るって言うのに。



「…私には、ノボリさんが居る。クダリが自分で言った事だよ?」


「そうだけど、僕の事まだ好きでしょ?」


驚いて目を見開く。

率直に、笑顔で聞いて来た。

答えれなくて驚いていると


「だからね、そんな春菜が僕は大好きなんだ!」


「…それも、冗談?」


クダリはにっこり笑う。



「どうだろうね?」


















(春菜が悪いんだ)

(ノボリなんかと付き合ったりするから)







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ