BOOK

□5日目
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なんだか今日は、晴矢が不機嫌な1日だった。

話しかけても無視。

…なんで、そんな怒ってるのよ。

私、何かした…?






「はあ…」

何度も無視され、本気でへこんでしまった私。

帰りだって、何も言わずに帰っちゃったし。

いや、別に彼氏じゃないから一緒に帰りたいとかじゃないんだけどね。

いっつもあっちが一方的に私の事待ってるだけなんだけど。

それでも、やっぱりいつもと違うと色々調子が狂うし疲れる。

放課後、一人ため息をついて帰ろうとしていた所、誰かに名前を呼ばれた。



「はい?」


振り向いてみれば、それは風介だった。

相変わらず読書家で、常に冷静そうな面持ち。

そんな彼が、こんな放課後に一体何の用だと言うのだろう。


「少し、一緒に帰らないか?」




























珍しい、誘いだった。


風介と一緒に帰るなんて初めてだ。

やばい、ちょっと緊張するかも。

ちゃんと話せるかな。


「春菜」


「はい!」


「お前、最近風丸と仲良いじゃないか」


風介がにやり、と笑って私を見る。


「そ、そうかな!」


私は照れ隠しで笑いながら頭を擦る。

仲良い…か。

だとしたら、嬉しいな。

風丸くんと、もっと仲良くなりたいから。






「…風丸くんはね、すごい優しいの。だから………、好き」



「好き?」


「う、うん」


「?顔赤いぞ」



再度確認する風介の問い方に、ちょっとどきっとしてしまう私。

そんな可愛い顔で言われたら、だれだって顔赤くなるよ。



辺りはもう暗い。

風介は不意に、上を見上げた。

少し黒がかかる、紅い空。もうすぐ夜になることを示していた。

それを見上げてる風介は、なんだかとても綺麗だった。



…くそ、これだから美形は。



「そうか。…春菜は、風丸の事が好きなのか」



「ちょ、も、もう一回言わないでよっ」


盛大に慌てる私。

風介は、笑う。



「な、なにがそんなにおもしろいの!」


「ははっ、いや、悪い。つい…可愛くて」



「はっ?」



風介から耳を疑う言葉が出た。

今、なんて?




「…ん?」



「…な、なに?なんて言ったの?今」

「だから、春菜が可愛いって」


「…。気持ち悪い。風介じゃないみたい」


「いや、可愛くなった、かな」


「…は?」




な、なにそれ。

じゃあ昔は可愛くなかったみたいな。





「お前は、恋をしてる。…だから、可愛く見えたのかもな」


「……恋、かあ」



そうだ。

確かに私は風介の言うとおり、風丸君に恋をしてるんだ。

かっこよくて、優しくて、素敵な王子様。




「…うん、してる」


「…ははっ、そうか」


「うん」



そこで、風介は少しだけ複雑そうな顔をする。


「結構、春菜も本人の前でズバズバ言うんだな。」


「へ?なんか言った?」


「…。、聞こえて無かったなら好都合だ。口が滑った」


少しだけ安心したようなその口調。


私は、それが気になった。


風介の言ってる言葉が意味分からなくて。

まるで、誰かがもう一人ここにいるような言い回し――…。




「なにそれ、どういう事?」


「私からは言わないよ」


「風介からしかないじゃん!」


「さあ、それはどうだろうね」



むう。

強情な奴め。



「教えてよーー!」









この時、私は晴矢の事なんか忘れてて、ただ、楽しく帰宅してた。

…その、はずだったのに。

















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