BOOK

□4日目
2ページ/2ページ











「…はぁ…はぁ…ぜぇっ…」



早くも息切れ状態な私。



ていうか、速いよ晴矢。

階段何秒で上ってんの。

やっと最後の階段を上り終わった私を待っていたのは、ヒロトだった。

もうそろそろ遅い時間なので、人も少ない。皆教室に入ってる頃だ。

なのに、ヒロトはなぜこんな所に居るのか不思議だった。


「春菜ちゃん、おはよ!」


何時もの彼だ。

元気いっぱいに挨拶をして、抱きついてくる。

私は…なんかもう、どうでもよかった。

晴矢に追いつけない悔しさからか、めっちゃ猛ダッシュして走ってきた所為で、超疲れてるし。


ああ…、でも。



「…ヒロト、私汗かいてるよ…」


「うわあ、本当だ。舐めても良い?」


「うん、止めようね。若干聞き間違いかな、とか思っちゃうから止めようね」


「ああもう、春菜ちゃんまじで可愛い。可愛い。欲しい。食べちゃいたい。……駄目?」


…食べちゃいたいって、

私は食べ物じゃないんだから。



上目づかいでこちらを見てくるヒロト。

きっとそうやって何人もの女を落としてきたんだろうなぁ…とか思いつつ、頬を思いっきりつねる。




「いたた、」


「変態な人には罰です」


ヒロトが頬を擦ってる間に素早く距離を置く。



「…あはは」





怪しい笑みを浮かべて、ヒロトは笑った。

また、いつもの変態症状か?とか思ってみていたけれど、なにか、違う。

何時も見てるヒロトじゃない。

……こわ、かった。












「可愛いなあ。どうして春菜はそんなに可愛いんだろう」



「…か、可愛くなんか…」

「ううん可愛い」


なんで。

私は本当に可愛くなんかないのに。

そりゃあ、言われたら嬉しいけど。でも。

少なくともヒロトが付き合ってきた女の子達の中では、最低クラスだろう。


けれど、ヒロトはそんな私の思いとは裏腹に、可愛い、を連呼する。


「さっきだって、俺から逃げられると思って引き離そうとしたよね?…ふふっ、可愛いなあ。逃げられる訳ないのにさ。笑っちゃうよ」




「…ヒロト?」


「ねえ、授業さぼってさ、俺と屋上で甘い時間を過ごそうよ」



根は真面目な私だ。

こんな誘い、断るしかないだろう。



「え、遠慮します…っ」


「そんな事言わないでよ。1時間くらい、いいじゃん」


「…だって。もうすぐチャイムなるよ?」


「うん。だからさぼろう?」


「か、彼女いるのにそう言うことしたらだめだよっ」


「そんなの、ばれなきゃいいんだよ」



出た。


彼の口癖。


彼女がいるのに、いや、居るからこそのスリルを楽しむかの様な裏切り行為を誘う言葉。

彼の、悪い(と私は思っている)口癖。


目の前でにっこにっこ笑うヒロトさん。

対する私は、完全に恐怖しかなくて。



「…あの、私用事あるしっ」


「……用事?」


ハッとする。

もしかして、これで逃げられるかな?


「そ、そう!晴矢に鞄届けなきゃならなくてっ…」




その言葉を聞いた瞬間、ヒロトの笑顔が一瞬固まった気がする。

そして、ゆっくりと首を傾げながら、細くてきれ長の眼を薄らと開いた。






「今、俺の前で、その名前言わないで。……じゃないと俺、君を犯しちゃいそうだ」




――ゾクッ。


や、やややややややややや、ヤバいよこれ。

なんか知らんが危ないよ。ピンチだよ。

春菜ちゃん、人生最大の危機!


ていうか、朝から2回も犯すって脅迫されるってどうなの?



とりあえず、助けを求め目を瞑る。


お願い。

誰でも良いから助けに来て。

もう、どんな形でもいいから。


お願い…!!











と、願ったその時。






「おい」



「…………、また君?」


ヒロトが迷惑そうにため息をするのが聞こえた。

私は、ぎゅっと瞑っていた目を、そろーっと開けた。


そこに立っていたのは、晴矢だった。



「なに、俺の玩具に手ぇ出してんだよ」


その言葉で、ヒロトが顔を歪める。


「いつ、君のって決まったわけ?相手から承諾を得たわけでもないのに、そうやって言われるのすごい不愉快」


「無理やり屋上に連れてこうとしたてめぇが偉そうに言うんじゃねーよ」


「俺は合意の上だよ」


いや、全く合意してませんが。

全力で逃げてましたが。


…てか、それよりも。


今日の二人の言い合い、争ってる事は何時もと同じだけど…



―――…いつもと、違う。


「春菜」


晴矢が、合意したのか?的な視線で睨んでくる。

私は誤解されたくないので首を横にふるふると振った。


「…春菜は拒否ってるみてーだけど?」


挑発的なイントネーションで相手の怒りを買う。

それが、晴矢の得意分野。

例え年上だって怖気づかないだろう。


「…はあ、もういいよ。晴矢の所為で萎えちゃった」


じゃあね、と、それだけ言って、ヒロトは手をひらひらさせながら教室に戻って行った。


晴矢の方をそろり、と見てみる。

、実に不機嫌そうな顔をしていた。

何がそんなに彼の機嫌を損ねたのだろう。


とりあえず何も会話がなく気まずかったので、1つずつ持っていた鞄を両手に持ちかえた。




「今のヒロトは、危ない」


「…へ?」


急な晴矢からの忠告。



「おまえ、今迄のまま接してたら確実に、食われるぞ」



く わ れ る?


くわれるってなに?

どういう意味?

それ、ヒロトも同じような事言ってたけど、意味分かんないんだけど。

きょとん、としていると、晴矢が鞄を奪って来た。


「つーか!鞄1つ増えたくらいでなんでそんな遅いんだよ、ブース」


「う、うるさいなあ!こちとらアウトドア派極めてるんだよ!舐めんなよ!」


「はあ?てか、お前助けてもらっといて何その態度。ありえねーわ」


「うっ…」



た、確かに、私が発する言葉は(仮)恩人に対する態度とは言い難い。

でも!



「晴矢が悪いんだもん、ばーかっ」


「よーし、そこ動くなよ?今からめっちゃくちゃにしてやっからよぉ」


「キャーーーーーーー!!」


ドS、降臨。



にっ…、逃げなきゃ。




…あれ?






……足が震えて逃げれねーや。ははっ。














前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ