BOOK

□2日目
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きーんこーんかーんこーん…


やっと放課後。

重く長いため息を吐きつつ、帰り支度をのろのろと始めた頃だった。

廊下の方で、声がする。


…ん、この声、晴矢…??


私は少し…本当に少しだけ気になって、廊下をちらりとのぞいてみることにした。

そこには、隣のクラスの確かモデルをやってた女の子(ものすごく可愛い)と、
壁に寄りかかって面倒くさそうにそれと対峙する晴矢の姿があった。

んん、なんだなんだ、別れ話か?とか冗談半分に思ってみる。



「なんでっ…どうして別れるなんて言うの?」


「…だーかーら、好きな人が居るんだって」


「嘘っ!…だって晴矢、この前の彼女と別れた時もその台詞だったんでしょ?…それで、晴矢の好きな人が私だって噂されて…、頑張って告白したのに…!!」



…なんか、ものすごいシリアスモードだった。

まあ、それは彼女の方だけの様だが。

晴矢は呆れため息をついて最早興味なさそうにしている。


ちょ、ていうか私、予想的中かよ。
なにそのフラグ。いらねーよ、望んでねーよまじで。



「じゃあなんでOKしたの?好きな人居るなら…私と付き合った意味が分からないよ…」



そのうち泣きだした彼女さん。

あわわ、ちょっ、晴矢!

これは収集つかないよ…!?
ごくりと唾を飲み込む。

何時の間にか魅入ってる私の後ろにも、風介が居た事なんて知らなかった。


すると、晴矢がはぁ、とため息を吐いて、彼女さんの頭に手を置く。

びくっとしながらも、おずおずと晴矢を見上げる彼女さん。



「…お前はさ、優しい」


「…え…?」


「傷つけたくなかった。…だから断れなかった」


「…は、るや…?」



晴矢がにこっと笑って、最後の言葉を言う。

私はそこから目を放せなくなって。

後ろで私に抱きついてたヒロトとか、それを見て引く風介とか。

全部、どうでもよくなってて。



「俺なんかより、素敵な男見つけろって。それが、一番お前にも俺にも良いと思うからさ」


「…!…晴矢ぁ…!」


晴矢に抱きつく彼女さん。



…良かった、んだろうけど。

少し、胸が痛い…?なんで?

…ああ、そっか。彼女さんが可愛すぎて、女である自信を失くしたのかも。


泣いてる顔も可愛くって。私なんかより大違い。

ああ、あんな子が彼女だったら男の子はどんなに嬉しいだろうな…。

すごくもててるっていう噂もあるし。

そんな女の子に抱きつかれてる晴矢は、ある意味幸せものと言える。









…つーか晴矢。



彼女、居たのかよ…。



























帰り道、ぼーっとしながら今日の事を考えていた。


私が進めるより先に、彼女が居た晴矢。

…ぜんっぜんしらなかったなぁ…。

そう言えば、クラスの子とかの付き合ってる子とかも全然知らないし。

時代遅れかな。

なんか流行に遅れてるJKみたいで嫌だな。

あ、ちなみにJKというのは女子高生の事らしい。

1週間ほど前、友達がJKという言葉をマシンガンの様に乱射していたので、JKって何?
と聞いた所、ものすごい驚いた顔をされ、あり得ない、と罵られつつ最後に教えてもらった言葉だ。

…別にしらなくたっていいと思う。

そんな、何かに影響するわけでも…ないと思う、し。




衝撃的だったのは、晴矢とモデルの子との別れ話。

顔だけはいいからなぁ…、ま、そりゃ告白されればアイツは女子好きだし付き合うよね。

顔さえ悪くなければどんな女の子とだって付き合うだろう。

女の子が居ないと生きていけない…。

ある意味ジゴロだな…。


…はーあ、それにしても…。

実際のああいう場面を生で見ちゃうと、結構精神的にきちゃうもんだね。

まあ、あの女の子「晴矢以外に私を幸せにしてくれる人なんて居ないよ」とかベタな事言ってたけど、
最終的に晴矢が「俺好きな奴居るから」であっさり終わったな。

あの後、結構いい友達同士になれたようで…。




…。




……、よかっ、た…?





…私…。





…本当に、そう、思ってるの…?







あの女の子と晴矢を見て、ちょっとズキってした。

胸が痛くて、頭が真っ白になって、目が離せなくなって。

なんで、だろう。

分かんない。

沸き上がる疑問に、私は自問自答を繰り返すばかりで、結論は出ない。











…あーもう!

こんなもやもやするの初めて!!

駄目だ、こんな日はあれだ、マック行こう、マック。

馬鹿食いしてやる。今日の悩みが吹き飛ぶくらい!


変な意気込みをして、マックに行く事を決意した私。

マックは私の休息所2だからね!うん。

人の目も気にせず、少し肌寒い風を斬りながら走った。











なんだかんだでマックにつき、一人席へとつく。

ちなみに席は窓際のオープン席にどかっと座りこむ。

フィレオフィッシュとポテト、ファンタを頼み、待つこと5分。

美味しそうに紙に包まれたハンバーガー達がトレイに乗っけられて出てきた。

私はそれを上機嫌に受け取り、着席。




まだ熱い出来たてのハンバーガーを手に取り、食べようとした、その時だった。




「よぉ」




「…」



口を開けたまま、固まる。

この感覚はあれか、デジャヴか。ヴの発音が難しい奴か。

ゆっくりと横を見ると、やっぱりマフラーをした晴矢がめっさ笑顔で私に話しかけていた。


…ああ、最悪。


休息所が一気に地獄になった。




「…なんで晴矢が…」


「あ?俺が居ちゃわりーのかよ」


「…べ、別に、そうとは言ってないけど」



だよなぁ、と言いつつ、私のポテト盗むの止めろ。

止めてもその仕返しが怖かったので、あえて言葉にはせず。

あれ?これって結構私、寂しい奴?

いいや、そんなことない。…ないはず。


……………ていうか、若干静かになってきたので、何か話しかけることにした。



「…晴矢、私が進める前に彼女居たんだ」

「…あー…まぁ」

「しかも結構仲良いし」

「…別に、言うほどじゃねーけど」


…なんか私、モブキャラみたい。
晴矢が主人公として、ヒロインがあの彼女さんとして。
そんな物語があったとすれば、私はいわゆる晴矢の友達。

…うっわー、ちょーやだ…。

いや別に、ヒロインになりたいって言ってる訳じゃないんだけど…。

どうせならうちはそれを見てる人でありたいね。




「俺、部活して腹減ってんだけどなぁ」

「…だから何?」




「ハンバーガーください」


珍しく下手な晴矢に、しょうがないなぁと声をかけつつまだ半分以上残るハンバーガーを渡す。

ついでに一口だけね、と声を掛けながら。


「…でさ、ハンバーガーあげるんだから、それ相応のものを引き換えしようよ」


「引き換え?別に良いけど」



その瞬間、私の目はキラリと光った。













「晴矢の好きな子って、誰?」




















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