BOOK

□1日目
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「そこの君!」


朝、ヒロトと春菜が話してる場面を見て胸糞悪くなった俺は、1時間目の授業を受けてから、毎日恒例のナンパへと繰り出した。

清楚で可憐、それでいて少しの活発さを持つ女子が、俺のストライク。

まあ、そんな女、この学校には誰ひとりとして居ないが。


俺が今、声をかけたのは、(恐らく)2年生の綺麗系女子。

後輩はなんとなく…うん、好きだ。可愛い。


「えっ…」


おお、戸惑う姿も可愛い。80点。

俺は彼女を壁際へと追い込み、営業スマイルを作る。


「君可愛いね?名前なに?俺は南雲晴矢。良かったらメアド教え…ッ!」


そこまで言って、頭にものすごい衝撃。

頭を抑えて後ろを向けば、仏頂面の春菜が拳でグーを作り、振りかぶっていた。

お、おお、やべえ、ちょ、それは駄目だって!グーは駄目だって!


「毎日毎日女の子をナンパして…、こんのろくでなし男ォォ!!!」

「ちょっ、まっ…あああああああああ!!!」

「ほんっと最低!!それ、うちの部の後輩だから!!安易に手ぇ出さないでくれる!?」


いてて…、マジコイツ何もんだよ?化け物だろ、この痛さ…。


…って、…なに?

…。

この子、春菜の後輩なのか。

春菜ってやっぱり馬鹿。

いい事聞いたぜ。


「お前、手加減ってもんしらねーのかよ…」


「しらねーよ! てか、大丈夫!?びっくりしたよね、急にナンパされて!」


「えっ…だ、大丈夫です」


春菜は俺をすり抜けて後ろの後輩を気遣う。

俺はにやりと笑い、立ち上がった。


「ねえ君、春菜の後輩なんだ?」


「はっ…、はい!」


「ちょ、晴矢、何して…!」


「超カワイイ。惚れた。良かったらさ、メアド教えてくんない?」


本日二度目の営業スマイル発動。

これで落ちねえ女は居ない。

(…。ただ一人を除いて)

春菜の後輩は頬を赤く染め、喜んで!とメアドが書いてある紙を渡してくれた。

俺はそれを受け取った。

…ふうん。やっぱり、顔がいい奴ってこういうのも用意周到なのか。


「ちょ…、だ、駄目だよ!こんな奴にメアドあげたら何されるか…!」


「あ、大丈夫ですよ!」


「…へ?」


「南雲…先輩?は、春菜先輩の彼氏ですもんね!手は出しませんよ!」


にっこりと笑って、後輩は階段をかけて言った。

手を振りながら見送ると、横では立ちすくんでいる女が一人。

絶句している春菜を見て、にやりと笑い、一言。


「へーえ、彼氏ねえ?」


「うっ」


俺に彼女が居ないとでも思われてるんだ。

面白い展開になってきた。


「俺達、そんな風に見えてるんだー」


「…は、晴矢がっ…」


「俺が?」


「晴矢がいっつも私の行く先々に居るからそう思われるんだぁぁああああ!!うわぁぁん!!」


泣きながらダッシュで移動教室へと走っていった。

これだから春菜は面白い。



口元の笑みを抑え、俺を見に来た女子達に手を振りつつ、移動教室へと足を運ぶ。





























「−って訳なの!吹雪くん、私一体どうすれば…うわああん!」


「…よしよし、辛かったね、えらかったねー。もう大丈夫だよ、僕が居るからね」


「あやし方が若干子供向きな気がするんだが」


ただいま吹雪くんにて、晴矢の愚痴を零し中である。

吹雪くんは物凄い勢いで抱きついてきた私にむせてたけど、やっぱり何時も通り変わらず慰めてくれた。

ああもう、吹雪くんマジ天使!私の癒し!

ドラク○風に言えばホ○ミだよ!



…そして、ついでに風介も居ると言う謎の展開。

まあ別にいいんだけど。いいんだけど気になる。


「とりあえず、晴矢から一線おいたらどうだ?」


風介の提案に、私は鼻を啜りながら顔をあげる。


「…一線?」


「そう。…なにをしても無反応、話しかけられても断固無視、ボディタッチは100倍返し…で、どうだ?」


にやり、と妖しい笑みを浮かべる風介。

…一瞬使えそうな気がしたけど、晴矢の精神攻撃は並みの防御じゃ効かない事を思い出した。

あいつの一撃はいちいち重い。

なんであんなに貶せるのだろうと思う程言葉が出てくる。

私はため息を吐いて、首を横に振った。


「…風介は、晴矢のサ度を分かってないよ…」


「うん、まずサ度って何」


「サ度…それは、相手がどれだけサディスティックなのかを表す度数…。数字が高いほど相手の残虐度は高いという事になり、測りきれないサ度をもつものは、測定不能と記される!」





「…説明御苦労さま…」


吹雪くんの顔が若干引きつっていた。



「とりあえず晴矢のサ度は測定不能です」


「いきなり測定不能!!いいの!?」


「そして私の眼の調子がいい時しかサ度は測れない…」


「最早何の頼りにもならない!!」


吹雪くんが冷や汗をかいていた。


「と、とりあえずサ度はおいといて…。晴矢の事で悩んでるんだろう?」


風介が頭を掻きながら聞いて来た。

私はそれにこくんと頷く。


「それなら、あいつに彼女が出来ればなんとなくだけど関係も落ち着くんじゃないか?」



そ…


「それだよ!ナイス風介!」


どうしたんだ、今日は冴えてるな。


「けど晴矢って春菜ちゃんの事好きだから彼女作るのは無理なんじゃ…」



「まずは出会いを作ろう!」


「そうだな」


「晴矢の事好きって女の子なら、私いっぱい知ってるよ!」


「いや、でもまず、晴矢の好みのタイプを聞いた方がいいんじゃないか?」


「さすが風介!」


「…」


「?どうしたの、吹雪くん」


「いや…、なんでもないよ…」




吹雪くんがなんかおかしかったけど、まあ、大丈夫でしょ。

うわ、頭おさえてため息までついてるよ。





そんなことより、私は晴矢のタイプを聞かないといけない。

…でも、移動教室にはいないし…。

もしかして、またナンパ?

うっわー、してそうで怖い。てか絶対してるだろ。



「…ところで吹雪」

「なに?」

「お前、いつから知っていた」

「なにを?」

「晴矢と春菜の面倒くさい恋愛図式」

「あ、聞いてたんだ」

「…一応」

「うーん。……かなり前から、かな」

「正直私は、早くくっついて欲しいと思っているのだが…」

「ははは。それは僕もだよ…」

「お前も苦労しているんだな…」

「してない顔に見える?」

「…何か色々やばいものを背負い込んでいるオーラがする」

「あはは。………はぁ…」

「…すまない」























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