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□鈍感な君に捧ぐ
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私は今、非常に怒っている。

どすどすと足音を立てて、放課後の教室へ足を踏み入れた。

大きく教室を見渡せば、窓の方に一人の男子が居た。

南雲晴矢だ。


私は、ずかずかとその男に近付く。

怒りを隠そうともしない今の私の顔は、非常に仏頂面で、可愛げがないでしょうけど。

そんなの、私の友達が味わった痛みなんてものを感じれば、なんともない。





バン、と南雲の机を叩く。

南雲は私に気付いて目を丸くさせて驚いた。



「南雲」


「な、なんだよ春菜」


「アンタ、今日も女の子振ったでしょう」




私が怒っている理由。


それは。



私の友達が、南雲に告白して振られたから。

別に、ただ振っただけじゃ、私だってこんなに怒っちゃいない。

ただ。


酷いのだ。

毎回毎回、南雲の振り方が。

「お前なんか眼中にねぇよ」だとか。

「俺の事外見で決めてるくせに」だとか。

とにかく酷い。

いくら幼馴染みの私だって、これを聞いたら黙っていられない。


それに、偶然かは知らないが何故か何時も私の周りの友達ばかりが南雲に告白していく。

そして、その友達等は、決まって私にこういうのだ。


南雲くんに振られた、酷い事を言われた、って。


私にどうにかして欲しいのだろうか?

その友達にも呆れるが、南雲には呆れを通り越して怒りがわいてくる。


何故そんな風に人をふれるのかが分からない。






「あー、そういや告られたな」


「今日はなんて言った訳?」


「「お前誰だっけ?」って言っただけで、泣きながら走ってったけど。何?春菜の友達だったんだ、やっぱ」


「…最低」


「それは俺の所為じゃねぇな」



…は?

どういう意味…?



「ていうか、アンタなんでそんなに可愛い女の子をほいほいと振れるの!?可哀そうでしょ!」


「や、だって俺、好きな奴居るし」


「晴矢に好きな人居る事は分かったけど、そんなに酷く振らなくてもいいんじゃないの!?」


「…あー…、…うん」


「女の子を傷つけるような事、言っちゃ駄目だよ!分かった?」


「つーか、お前マジで鈍感だよなー、ブス女」


「はああ!?意味わっかんない!しかもブスとか言わないでくれる!?」


これだから晴矢は嫌いだ。

他の女の子には「可愛い可愛い」言うくせに、私にだけは「ブス。キモイ」などと普通に罵ってくる。

そう、私にだけ!


「もう、だから晴矢は嫌いなの!」


「あっそ。つかよ、教えてやろーか」


「………何?」




「俺に告白してくる女子って、全部お前の友達ばっかだろ」


…何で知ってんの?


「…そうだけど」


「実はさー、お前の周りの女子ばっか誘惑してたんだよね、俺」


「はあ?何ソレ。私に喧嘩売ってんの?」


「おっ、いいね。なになに、嫉妬?」


「一回死ねば?そういう事じゃなくて、振られ話しをいっつも聞かされるのは私なんですけど」


「違うのかよー、ちぇ、喜んで損した」


は?なんで喜ぶんだ。馬鹿なのか、コイツは。


「ねえ、一回私の身になった事ある?毎日のようにアンタの話しをされる、私の身に、さ」


「ま、俺ってモテるし?」


「死ねよマジで」


「キレんなって。…鈍感クソ女?」


「殺す!」



ぶんっと拳を晴矢にぶつけたつもりが、軽く避けれてしまった。




「なあ、いい加減気付けば?」


「何に!」


「俺がお前の事好きだって事に」


「気付ける訳な、………、は?…」




何時ものように流そうとしたのに、私は口を大きくあけて驚愕した。

ああ、そうさ。どうせ可愛気の欠片もないだろうね。


晴矢は対照的ににやにやと笑っている。

ああ、くそ。なんだコイツは。胸糞悪い。



「心臓に悪い冗談はやめてくれる?危うく卒倒する所だったんですけど」


「そうかそれは残念だな。けどまあ、どうやらこれは、本気らしいからよ」

「…、らしいって、自分の事じゃん」

「だから本気だって言ってるじゃん」

「ほ、本気、って…」


「言っちゃうと、お前の周りの女友達誘惑してたのも春菜を嫉妬させる為だし、気付いてなかったとは言わせねーぞ」


「へ?」


「俺、お前と他の女との接し方、全ッ然違ってきたつもりなんだけどなー」



…え、でもそれって。

私を女として見て無かったからじゃないの?



「そ、れは」


「お、それは知ってたんだ。エライエライ。鈍感女にしては上出来だ」


「うっわ超ムカつく。殺していい?」


「まあ落ち付け。とりあえずだな」



晴矢がどんどん私に近付いてくる。



「ちょ、近、」











ちゅ























アレ、何コレ。




私、キスされた?














鈍感な君に捧ぐ

「な、ななな、何すんのっ!」

「好きです超好きです大好きです。だから付き合って」

「…っ、順番がおかしいだろーがああ!!」

 

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