気弱彼女とヤンキー彼氏

□4日目
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お弁当のおかずの(たこさん)ウィンナーを口に運ぶ。

昨日は晴矢先輩にいきなり呼ばれて、びっくりしちゃったなあ。

私、3年校舎なんて行ったの初めてだし。


…しかも、ヒロト先輩?って人??すっごい苦手なタイプの人だ。

ああいう女好きそうな人は嫌いだ。

…もちろん晴矢先輩だって女好きなんだろうけど…。

だけど、まだ我慢出来る気がする。

晴矢先輩は…まだちょっと怖いけど、でも。男嫌いを直してもらうのも、いい機会だと思うし。


…ち、違う!決して晴矢先輩の事を好きな訳じゃなくて!!

…ううう、違う、違うんです〜!!


「うえーーーん!!」


「うわ!昭和女が泣きだしたぞ!」


「はわわ、ごめんなさいぃぃうえーーん!」


周りの男子達が、私を見て叫んだ。



「違うんですー!ふえーん!」


「誰に言ってんだ、コイツ!」

「お、俺かな…」

「いやちげーだろ!つーか誰か慰めろ!コイツ泣き虫なんだよ!」

幼馴染み兼ねクラスメイトの一人、吹雪敦也くんが、私を指差して言う。

うえーん…敦也くんは高圧的だから嫌いだよぅ…。

泣きやまなきゃ…。


とりあえず、顔に力を入れてみた。

「…」

「…いやいや、春菜?何変顔してんの?」

「うえーーーーん!!」

「えええ!!な、泣くなって!」

「あづやぐんのばがぁーー!」

「はああ!?んだよコラ!折角慰めてやろうと思ったのに!」

「…う」

「大体テメーは毎日毎日泣き喚いててうるせーんだよ!少しは静かにできねーのか!」


睨むような敦也くんの目に、私は怯んでしまって、更に涙が出てきた。

此処は教室で、敦也くんは他の男友達とパンを食べていた。

一方私は一人。

それだけ。それだけしか、教室には居ない。

まあ、こんな事は日常茶飯事なので、もう慣れているのだが。

今日は酷かった。

何時も以上に敦也くんがキツいのだ。

だから男の子なんて嫌いなんだ!!!


「うえーーーーん!!」

「泣くなチビ!昭和女!」

「うるざいなぁ…ぐす、誰の、所為だと、思ってぇ…」


あ。駄目だ。

やっぱり声が震えちゃ…う。



ガラリ



「おーっす、春菜ー」


「ふぇ…」


「…!!」


「…春菜?」


晴矢先輩が、私を見つけた途端驚いて、歩み寄ってきた。


「…うぅぅ、はるやぜんば…」

「何、どした?いじめられたの?」


私は震えながらコクン、と頷いた。

そして、敦也くんを見た瞬間、また驚く。


「…敦也」

「…!晴矢」


…え??

し、知り合い…?



「よぉチビ、よくも俺の彼女を苛めてくれたな」

「誰がチビだ!5センチしか変わんねーよ!…ってか、」


「あ?」


「…え?…かの、じょ?」


まるで離婚届を見た瞬間の夫の様な顔をした敦也くん。

半歩程引いて、ぐっと拳を握りしめている。


「な、なんで春菜なんかと付き合ってんだよ、お前みたいな奴が…」


「いいだろ」


にや、と笑って晴矢先輩が私を引き寄せた。

いきなりの事につまづきそうになった。

び、びっくりしたー…。


「俺、食い散らかすの止めたから」

「はぁ!?」

何やら敦也くんが驚いている様子。

食い散らかすって…ナニをだろ??

あ!分かった!


ご飯だー


「今は春菜一筋」

「なっ…!」

え。

わ、私一筋…って、どういう意味…?



「ナニ?もしかしてお前、春菜狙ってたのか?」

「ば、馬鹿言ってんじゃねーよ!こんな昭和女、誰が!!」

「こんな昭和女…」

その言葉に、グサッと鋭い痛みの様なものを感じた私は、教室を飛び出した。

「あ、ちょ、春菜っ…」

「てめぇ、人の彼女に悪口言ってんじゃねーよ」

「うるせーな…、別にそんな傷つけるような事言ってねーだろ」

「あー、まあ、見た目昭和女だわな」

「だろ?ホントの事言って何が悪いんだか…」

「お前さ、眼鏡とったトコ、見たことある?」

「あ?……春菜の?」

「そう」

「……ねーよ。なんで?」

「…いや?なんでも」












あの後晴矢先輩が追いかけてきて、すぐ捕まりました。

ちょっと怒られて、でも、なんだかすごく嬉しそうに笑ってた。

…一体、なんだろう…。




























きーんこーんかーんこーん…





やっと学校が終わり。
ふぅ、今日も色々あったなあ。

ていうか、本当に敦也くんが嫌いになった1日だったよ。
あそこまで酷い人、初めて見た。

人の事泣き虫だとか、昭和女だとか。

自分が好きでこの格好をしているのに、馬鹿にされるなんてイラつく!


…なんて、ずっと考えててもしょうがない。

真夏の蒸し暑い夕方。ゆっくりと校舎から出た時だった。

何時もの通り、一人でとぼとぼ歩いていると、後ろから急に頭を(優しく)叩かれる。



「うぶっ」

「色気のねー声」




振り向いてみれば、面白そうに笑う晴矢先輩が居た。
色気が無いのはもともとです。こんなチビで昭和女に色気なんてありません。




「…あ、れ。せんぱ、部活終わったんですか…?」

「ん。ああ…、まあ…」



なんか曖昧な返事だった。
ていうか、何部なのだろう?



「つーかさ、お前男嫌いなのに敦也は大丈夫なんだな」

「あ、敦也くんは…幼馴染みなので…」

「ふーん…。…今帰り?」

「は、はい…帰り、です」

「そっか。んじゃ、一緒に帰ろーぜ」

「ええぇ!?そ、そんなっ…、男の人と肩を並べて歩くなんて言う不純極まりない事をしかもこんな昭和女と歩いてたら晴矢先輩が周りからなんて言われるか、むぐっ」



そんな事を言ってみると、晴矢先輩は私の口を抑えた。

びっくりして先輩を見ると、なんだか呆れた様な顔をしてた。

手が口から離されると、私は目一杯息を吸い込んだ。



「あんさぁ、別に俺、そういう事気にしてねー訳よ」

「っえ…?」

「周りの目がどーこーじゃなくて、春菜と帰りたいから言ってんの。分かる?」

「…え、と」

「…分かった。じゃー、こうしよう」


そういうと、晴矢先輩は私のみつあみを一気に解いた。

長い髪がその振動で揺れる。

その次に、眼鏡を奪い去った。
私はきょとん、とした後、慌てふためく。





「ふぇっ、な、何すっ…」

「…やっべー」




あ、あうぅ…周りの視線が気になるよう…。

せめて眼鏡だけでもっ…。



「あ、の、先輩っ…」

「ヤバい」

「へ?」

「あーもー、行くぞ!チビ!」

「ふぇっ…、ふえぇぇん!」

「なんで泣くの!?え、チビってそんなに気にしてた!?」

「ちがっ…、違うんですぅぅ!」





周りのざわつきは晴矢先輩と居ると何時もの事だったけど、今日のざわつきは何かが違った。

なんか…晴矢先輩じゃなくて、私が注目されていたような…。

あ、もちろん晴矢先輩も十分注目されてましたけど!

それ以上に、私が見られてた気がする…。
 

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