気弱彼女とヤンキー彼氏

□3日目
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「きもい」


ヒロトから発せられた一言。

俺は目を細ませてヒロトを睨む。


「あ?」


「だから、きもいつってんの」


「んだとこの野郎。やるか?」


「あーあ、暴力晴矢はすぐ喧嘩に持ち込もうとするー。このリア充ホント死ねばいいのに」


「誰が暴力だって?」



そう。

俺は春菜と付き合っている。

めちゃくちゃ地味で、性格は泣き虫。

多分、俺と付き合ったのが初めてなんじゃね?

俺もこんな好きになったのは初めてだけども。

…まあ、俺だって恋愛経験が少ない訳でもない。

ただ単に女が寄ってくるだけなんだけどな。


つーか、今日もあいつ、でっかい眼鏡かけてたな。

なんなんだ?そんなに目を隠したいのか?

俺、あいつの目好きなのになー。

しかも、超ちっさいし…。

あーもう、俺相当やべーな、コレ。

今までこんな事なかったぞ。

どーしよう、俺…マジで好きだ。

会いたい。



「きもい」


春菜の事ばっかり考えていたら、また、ヒロトからそんな言葉を浴びせられた。

どうやら俺の思考はお見通しらしい。

だからコイツは嫌いなんだ。


「うるっせーなー。だったらお前も彼女作れよ」


「えー、だって可愛い子居ないし。…っていうか、春菜ちゃんって顔見たけど何処が可愛いのかさっぱり分かんない」


「あ?……うん…まあ、そうだな、うん」


普段はな。

ホントは春菜を貶されてめっちゃイラついたけど、眼鏡外した時のギャップの事を教えたらヒロトは絶対それを実行する。

だから言うのは止めた。けっ、誰がこの垂らしヒロトに可愛い可愛い春菜を渡すかよ。


「なんで一目惚れした訳?南雲晴矢ともあろう方が、さ」


呆れながら、ヒロトが聞いて来た。


「だから、一目惚れだって」


「ふーん…。ね、会ってい?」


「駄目!!お前だけは絶対!」


「えー、なんで」


「だってお前、垂らしじゃねーか!誘惑しそうだし!」


「バカだなー、そんなの分かんないじゃん。相手が晴矢にぞっこんだったら奪えない訳だし」


黒い笑みを浮かべるヒロト。

いや、まだ俺達は付き合い浅いし、ヒロトに奪われそうだから心配してるんだが。

…コイツは人の彼女を奪うことでも有名だ。

性格がかなりねじ曲がっているので、奪った後、急激に冷めて、すぐ捨てるらしい。

そうして何人ものリア充を爆発させてきただとかなんとか。


………俺はそこまでしねぇな、うん。


「お願い、一回だけ連れてきて」


「…えー」


「間近で見たいんだよ。俺、ガキ苦手だから1年生の所行きたくないし」


んま、それは俺もそうだ。

高1ってのは、なんか、子供らしくて駄目だ。

もっと大人しくて、大人っぽい奴じゃないと。

せめて2年かなー、くらい。

春菜は例外だけど。


………つーか、ガキ苦手なんだったら春菜も苦手なんじゃね?

じゃあ、ヒロトが春菜を諦めてくれる可能性も高いって訳で…。



…。



「よし、いいだろう」


「マジで?やったー、晴矢様大好き」


「止めろ気持ち悪ィ。…んーじゃ、ちょっと待ってろ」


「あいさー」






























「…ふーん、やっぱ地味だねー」


「ふぇ…」


目の前にいる、俺の愛しい彼女はぷるぷるしながらヒロトの目の前に立っていた。

あー、やべ。マジ抱きしめたい。

つーかさっき抱き締めたら平手打ち喰らったし。何気やるな、この女。泣いてたけど。


「あ、の…南雲、さん…」


「ん?つーか俺の事は名前で呼べ、名前で」


「え…じゃ、じゃあ…晴矢さん……あの」


「いやいや、さんいらないから」


「…む、無理ですよぅ」


今にも泣きそうな春菜。やっべマジ可愛いどうしよ攫ってい?ヤッちゃってい?美味しく頂いても構いませんか?


…と。

まあ、そんな欲望は必死に抑えた訳だが。


ヒロトがこちらを見て薄ら睨んでいた。

いやいやいや、怖いんですけど。


「あ、の…この人って、どちら様ですか…?」


あぁ、そうか。なんにも説明しないで連れてきたもんな。

つーか、3年校舎くるの初めてだからって、緊張しすぎじゃね?

足震えてるし。可愛いから許すけど。


その時、ヒロトが動いた。


「やあ、こんにちは。俺は基山ヒロトって言うんだ。おチビちゃんは…本当に晴矢と恋人なのかな?」

春菜の頬を擦りながら、ヒロトがにっこりと営業スマイルで問いかけた。

あああ、触んなクソヒロト!!




「あ、え、と…い、一応…」


一応って言葉に少し悲しくなったりもするが、春菜の態度によっしゃあ、と思ったりしちゃう俺。


明らかに引いている。ヒロトの言動に。

ふんふん、成程…。

春菜はキザな奴が苦手なのか。


「ねえ、俺と素敵な夜を過ごさない?」


オイィィィィィィ!!

顔近いんだけどおおおお!!


「止めろバカ!!


俺はヒロトから春菜を引っぺがした。

その時、カシャン、と彼女がつけている眼鏡が落ちる。

俺の後ろに隠れながら顔をのぞかせた春菜。その大きな眼には涙がたまっていて、キラキラと光っていた。


「うっわ…」


ヒロトが口元を抑える。


「は、ははは、晴矢せんぱ…」


混乱して、呂律が回っていない所もまた、可愛い。

ていうか、さんから先輩に昇格したのな。まあ、さんよりは断然マシだからいっか。


「…あ、ごめん晴矢…。…俺、ちょっとコンビニ行ってくる…」


「お、おお…」


…?

なんか、ヒロトの様子がおかしかった。

…まさかとは思うけど…。



「…き、基山ヒロトさんって…こ、怖いです…」


…ま、こっちが大丈夫か。


俺はもう、すんごい春菜が愛しくなって、抱き締めた。

今度はあんまり抵抗がなかったので、俺は嬉しくなって更にきつく抱き締める。

そしたら苦しいです、なんて。






ああもう、可愛すぎる












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