気弱彼女とヤンキー彼氏

□1日目
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しいて言えば一目惚れ。

今までケバいくらいの化粧した女しか見た事ない俺は、素顔で、とても可愛らしい目をした小さい後輩に、恋をした。

そいつの名前は、神埼春菜と言うらしい。

聞いたこともない名前だな…。

髪は長いのだろうけど、みつあみにしているし、前髪はパッツン、何時も大きい眼鏡をかけている。

何だコイツ、昭和?

最初はそう思った。

でも、俺にぶつかってこけた時に、眼鏡が外れて…。




「…す、すすすっ、すみませんっ!!だ、大丈夫でしょうか!?お怪我はありませんでしたか!?」



きゅん。



え、何、きゅんって。

俺、何に目覚めたの。

ていうかヤバい。この可愛い小動物何。

撫でたい撫でたい撫でたい。愛でたい。


コイツ、超攫いてぇ…。





けど俺のバカ、何しちゃってんのこんな時に。

不良とかいいから。も、そういうのいいから。

とにかくこの胸のドキドキの確信に迫ってみたかったのに。


「気を付けろよ、チビ」


なんて、挙句には貶しちゃって俺何言ってんの馬鹿ああああ

ごめん、神埼。後で謝りに行かせるから。俺の子分2に。




























「神埼春菜って知ってるか?」

不本意ながら、友達のヒロトにそんな事を聞いてみた。

なぜならコイツは色んな情報を持っているし校内にも結構有名な存在で、探りを入れるのが得意。

だから、人探しとかは何時もコイツを頼っているのだが…。

ヒロトはぽかん、と口を開けて固まったかと思うと、それからけらけらと笑いだし始めた。

くそ、これだからヒロトに相談するのは面倒なんだ。


「へえ、君が、俺が聞いた事もない女の子の名前を口に出すとはねえ」

「…悪ーかよ」

「そんなことは言ってないさ。ただ、大人になったなあ、って」

「あ?どーゆー意味だ」

口元に豹を描き、意味深に微笑むと、椅子からゆっくりと立ち上がる。

「いいよ。探してあげる。期限とかは?」

「ない。…あーでも、早い方がいい」

「何時までさ」

「んじゃ、今日の放課後まで」

ちなみに今はお昼。

こんな短時間で、しかも1年生を名簿から調べて1クラス1クラス確認する作業を、しかしヒロトはやってのける。

まるで、俺を誰だと思ってる、とでも言うように、威圧的に、

「なんだ、そんな遅くていいの?」

ヒロトは怪しげに微笑んだ。


そんなヒロトに少し悪寒を覚えながらも、放課後まで待つことに。





…それにしても、神埼、か…。

可愛かったな…。

いや、地味なんだけど、可愛い。

なんていうんだろう、可愛いっていうベースの中に、地味要素が入っているっていうか…。

ああもう何言っちゃってんの俺。

どうしたんだろう、マジでどうしたんだろう。

恋なのか?

…俺は、あんな地味な女に…恋をしたのか…?

…いや、でも、彼女の事を思うたびに胸が締め付けられるこの感覚。

これを恋と言わずして何と言う。

…さて、これが恋と分かったのはいいけれど、この先どうしよう。

どうやって神埼に会えばいいんだ?

俺は高3。アイツは高1。

よくよく考えれば、3年生が1年生の教室行くのってなんか…、お、おおお、可笑しくね?


あーもう、俺は一体どうすれば…




「そりゃ告白だよ、告白」



「!?ヒ、ヒロト…」



いつの間にか、ヒロトが居た。



「おいおい、何してんだよ…ってまさか」


「ん、分かったよ、神埼春菜ちゃんの所属クラス、部活、担任教師、成績、どんな性格なのか、恋人はいるのか、どんな家庭環境なのか……挙句には、住所まで、ね?」


「!!おま…それって法律なんじゃねーの?」


「あはは、俺が法律なんて気にすると思ってるの?大体、コレは大丈夫だよ」

「そ…そうなのか?」

今、爆弾発言が飛び出た気がするんだが。

「うん。…で、はい」

「…はい?」

俺の目の前に差し出されたヒロトの手。

訳が分からずじっと見ていると、ヒロトが不敵に笑いながら言った。

「やだなあ…情報提供料だよ」

「は?」

「探偵だって、浮気調査を依頼された時にお金貰うでしょ?それと一緒」

再びはい、と差し出された手に、俺は渋々1000円を置いた。

毎度あり、1000円をぴらぴらさせながら言ったヒロトに、俺はで、と話を戻す。

「教えろよ」

「1年B組、神埼春菜。茶道部所属。成績は上の中。穏やかで優しい性格、読書好き、しかし男嫌い。いっつもみつあみして眼鏡かけてるからあだ名が昭和女だってさ、笑えるね」

俺は改めてヒロトを尊敬した。

否、決して尊敬するような奴ではないのだが…、っていうか尊敬しちゃ駄目な気がする、コイツは。

変態だし、不良だし。

…あ、俺も不良か。

現に今、授業サボって屋上の前の階段に居るからな、俺達。



そして、俺はごくり、と喉を鳴らした。

一番聞きたい情報がまだ聞けてないのだ。

それはヒロトも分かっていて、妖艶に微笑みながら俺を挑発している。

くそ、早く教えろよ馬鹿。


「…で、彼氏は居ないってさ。良かったね、晴矢」


「…マジか」


「うん。…まあ、逆にあーいう子に彼氏とかいたら驚きだよねー」


あの後ヒロトがなんか言っていたが、そんなのは耳に入らなかった。

…彼氏が居ない?

…よ、


よっしゃあああああああ!

こうなりゃもう、俺は止まらねえっ!


「え?ちょっと晴矢、何処行くの」

「1年生の教室」

「…何するつもり?」

「春菜に告白してくる」

「は?ちょ、やめなよ、いくらなんでも今は―――」


ヒロトが途中なんか言っていたが、そんなのは耳に入らなかった。

てか、もうどうでもいい。

今は春菜の事で頭がいっぱいだから。



「―――――…って、あーあ…行っちゃったよ…」


頬杖をつきながら、ヒロトが俺を呆れた様な顔で見てる事は知らない。





















 

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