BOOK

□い
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「なに、やってんの?」



「見送りに参りました」


息を整えながら、淡々と、冷静に、ノボリは告げた。


「、仕事は」


「終わらせました」


そんな馬鹿な。

この前クダリに聞いた仕事の量を考えると、こんな短時間で終わるはずがない。

そんな思考とは相対に、心中、ノボリらしいと笑う自分が居た。


「…、そ、なんだ…」


「はい」


「…でも、よくわたしだって分かったね」


「ええ…その、小さいですから」


「うん、なんか色々感動を返して」


ノボリはノボリだった。

今迄の私のこの胸のときめきと感動を返して欲しい。

珍しく、不覚にも泣きそうだったのに。

それをこの男は無表情に、つーんとした顔でさらりと酷い事を。


けど、それが逆に、私の緊張を紐解いたり。


普通すぎる程、ノボリは当たり前のように話しかけてくれた。

嬉しいのは言うまでもないが、サングラスをしていて良かった。

ちょっとにやけた顔を見られたら間違いなくいじられるだろう。


「…ノボリは、変な人だね」


「貴方に言われるなど心外ですね」


「…ていうか、トウヤと、仲良かったんだ…」



考えてみれば、トウヤとも色々あった。

小さい頃から色々なことで遊んで。

色んな事共有してきたっけ。



「えぇ。トウヤ様はバトルサブウェイの常連でございますから」


「ふーん…。強いの?」


「…、それは、本気で聞いているのですか?」




は?

本気以外に何があるっていうんだ。

ノボリの疑うような目が妙に気になったが、私はこくりと頷いた。




「…トウヤ様は、全車両突破をなされた初めての方です」


「え…?」


全車両突破?

それって…凄いんじゃ、ないの?


「まあ、その時はクダリが最後の車両で不謹慎にも仕事中にアルコールを飲んでしまい、そのまま勝負をしましたので、トウヤ様はそれを勝利とは認めてはおられませんが」


「クダリ…酒飲むんだ…」


「間違えたんでしょうね」


「間違えた?」


クダリが?

でも、クダリって案外馬鹿そうに見えて実は孔明で才気煥発なはず。

そんなクダリが、間違える?しかも、そのまま気付かずに?


うーんと唸っていると、ノボリがくすり、とニヒルな笑みを零した。



「その日の前日…あまりにもクダリがサボりすぎるので私が朝から夜が明けるまでこき使ってあげたのですよ」


「よ、夜が明けるまで…」


く、苦笑するしかない。


あ、でも納得行きました。

クダリはその日疲れ果てていて、珈琲を買おうとしたけれど間違ってお酒を買っちゃった…そんな所だろう。きっと。

いくらクダリでも、朝から夜明けるまで働かされたら頭も回らなくなるよね。

ノボリ…やっぱ鬼畜だな。



「トウヤ様が私と初めて戦った時の事は、知っていますか?」


「ううん」


「…あの時、トウヤ様は13歳でございました」


「…じゅうさん…?」



…13歳。

…も、しかして?



「…ノボリ。季節は覚えてる?」


「冬です」







間違いない。


冬は、トウヤが初めて付き合った女の子と別れた季節だ。

私はその時、トウヤから何度も何度も…、ホント毎日かってくらいに相談受けてたから、よく覚えている。

私も忙しかったんだけどなぁ。

丁度、私が辛くて泣いた時かな。

…トウヤは慰めてくれたっけ。





…でも、初めて別れたくせに、泣きもしなかったな。

別れたら別れたで、スッキリした顔してたし。

元々顔立ちがいいから、いっぱい告白されてたんだろうなぁ…。



「そう…。真冬のとある日に、トウヤ様は私たちに勝負を挑んできたのです」


「…そうなんだ」


「えぇ。相当自信がおありなような態度でしたので、7両目でボコボコにしてさしあげましたけど」



…態度にムカついたんですね。分かります。

「おいおい、バトルサブウェイってこんな所かよ?つまんねーなー」ってな事でも言ったんでしょう、トウヤが。

私はバトルとかよく分かんないけど、大方そんな感じでしょう。

子供に馬鹿にされる大人程、みじめなものはないもんね。



「…けれど、それから1年」


「え、トウヤまた行ったの?」


「来られました。それも、7両目までポケモンたちもほぼ満タンの体力で」


「へぇ…すごいね」


「…。…貴方は…」


「え?」




ノボリがため息を吐いていた。



なにその、コイツ、分かってねぇな…的な視線。

なんで分かんねぇんだよ…的視線。

ちょ、止めて止めて。





「トウヤ様は、強くなりたかったのです」


「あぁ…うん、そうだろうね。私にも何度も言って来たよ。俺、強くなるから″って」


「そこまで言われてどうして…」


二度深いため息を吐いていた。

…だからなんだっていうの?

言いたい事あればはっきり言えばいいのに。



「ですから!」


「は、はい」


「トウヤ様は、」


「はい」
































「春菜の為に、強くなりたかったのです」















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