BOOK
□た
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「春菜!」
電車へと一歩踏み出しかけた足を、止める。
頭では分かっていた。
私は、皆に感謝しなきゃいけないんだと。
皆に、平等に感謝するべきなんだと。
けれど。
私は卑怯な人間で。
心の奥底で、一番強く気持ちを伝えたかった人がいた。
それはいけない事じゃない。
決して咎められる事じゃない。
でもね、私はやっぱり卑怯者なんだよ。
だから願ってしまっていた。
最後に一度だけでも、会わせて下さいって。
「ノボ、リ?」
この声は、絶対に、そう。
君以外、考えられない。
「、探しましたよ」
少し息が切れているのは、私を探してくれていたからだと、勝手に解釈をしてしまう。
「…ノボリ…」
しかし冷静になればなるほど、目の前に居る人が本当にノボリなのか疑ってしまう程、私は混乱した。
だってノボリが此処に居るって事は、仕事を放り出して、あるいは押しつけて来たって事だ。
ノボリは、そんな人じゃない。少なくとも、私が知っているノボリは、そんな事はしなかった。
何時だって仕事が一番で。不器用なくらい人に興味がなくて。
私が、ノボリのなんなのかって訳でもないけど、私の事は二の次三の次だった。
私が知ってるノボリは、そんな人だった。