BOOK

□で
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「ノボリー、これどこにおけばいい?」


「それはリビングにまとめて置いといて下さい」


「はーい」


気だるい返事をしながら、難しそうな小説に視線を移す。

こんな分厚い本、本当に全部読んだのだろうか?

クローゼットの中から3つの段ボールを運ぶ。その中には全て本、本、本である。

やっぱり頭とかいいんだろうなーとか考えてみる。


「春菜、それをリビングに置いたらこちらを手伝って下さい」


「えぇ…、こほん、はーい」


一瞬悪態をつこうとも思ったが、ノボリがギロリと睨んできたので急いで口を慎む。

うん、相変わらず恐い。


只今わたしは、ノボリの家の掃除を手伝っている。
見た目は綺麗なのだが、使っていない部屋には荷物がかなり溜まっているらしく、そこを整理したいとの事。
うん、という訳でわたしは強制的に手伝わされている。


「…んしょ、」


…ちょっと、重いな。
最近と言うかわたしは運動とかあんまりしない人なので(何故か足は速いが)、こういう力仕事とかは苦手だ。

それに私の食事の量は2食だけ。
別に食べなくてもお昼はお腹空かないし、日常生活でもあまり困らないのだが、こういう場合は例外である。

それでもまあ、ノボリには感謝してもらっているし、今更持てない、などと弱音を吐く事も気がひけたので、後数メートルの所くらいまでは持って行こうと思う。


「よいしょ、っと」


埃を少し巻き上げて、段ボールを乱暴に落とした。
…ちらりとノボリを見てしまうのは、恐怖心からだと思って貰って結構だ。
ああ、どうせ私は臆病ものですよーだ。


「ノボリー、次は?」


「では…こちらの荷物をリビングにお願いします」


「…はーい」


なんか力仕事が多いのは気のせいなのか?

もしかしてわたし、力持ちとか思われてたらどうしよう。

もしそうだったらとんでもない!わたしはひ弱な女々しい女の子なのに!

…と、までは行かないが、流石に限界はあると思う。

とりあえず、ノボリの所まで行かねば。


「よい、しょっと」


ううん、これはさっきよりも倍は重い…


「…大丈夫ですか?フラフラしておりますが」


「うん、平気。おっと」


「ホラ、よろけているでしょう。…やはり子供と言えど女性にやらせるものではありませんでしたね。もういいのでそこに置いといて下さいまし」


カッターシャツをまくったノボリが呆れたため息を零し、段ボールをわたしから奪おうとしてきた。

あ、中身やっぱり本なんだ。うわ、埃が!


「ちょ、これくらい運べるよ!」


「いけません。もしこけて怪我でもしたら大変でしょう!」


「こけないっての!」


「万が一、という言葉があります」


「もう…、難しい事言ってないで、放し―…!?」


力んだせいか、足が前にすべった。

私は後ろに背中から倒れていく。

あ、ヤバい。

久々に大けがの予感―


ノボリの言う事、聞けばよかった、なんてのは後の祭り。



わたしは背中に強い衝撃を感じて段ボールを離してしまった。

小説がバサバサとわたしの上に―――、否、


私達の上に、落ちていく。




「…っ―、」



ノボリが、目の前に、居た。

それも、目と鼻の先に。

顔が一気に赤くなる。なんだコレ、ノボリ?ノボリが目の前に…、居る。

後3センチでも動いたら、もしかしたら唇と唇が触れてしまうんじゃないかと思うほど近い距離に、ノボリは居た。

どうやらわたしを助けてくれようとしたらしい。

え、ノボリが?的な事を言うのは止めておこう。


息が、呼吸が止まる。

ノボリの目を見詰める。ノボリもまた、わたしを見ていた。

本に埋もれる私達の間を、時間が通り過ぎて行く。



「…大丈夫、ですか」


「…え、…ああ、は、い…」


何時の間にか普通のノボリに戻っていた。

わたしは何故か知らないけれど敬語という。

ノボリは目を伏せて、起きあがる。ノボリの上に乗っていた本は容赦なく落ちて行く。

わたしも急いで起きあがろうとしたが、本が邪魔で起きあがれない。

段ボール3つ分だものね…

多いよ、流石に…

というか、自分の体の小ささを呪います、神様。(2回目?)

本の山から出れなくてもがいていると(無様だ…)ノボリが私の手を引っ掴んで優しく引いてくれた。



「あ、ありがとう」

「どういたしまして。…これに懲りたら、もう自分の力以上の仕事をしないで下さいまし」


何故か俯くノボリにそう言われた。



…でもまあ、その通りだと思って反省する。

ノボリの言ったことは正しくて、わたしが行った事が間違いだったのだから。


「…ごめんなさい」


素直に謝る。これはわたしが悪いと明確に分かっているからだ。


「…わたくしが無理に手伝いを強いなければ良かったのです。春菜は悪くありませんよ」


後姿でそう言われて、なんだか胸が熱くなった。

…はい?胸が熱くなった?

ごめん、ちょっと表現がおかしかったので直します。ごめんね。

…えーと、後ろ姿でそう言われて、なんだか頭が痛くなった。

…うん、こっちの方が私的には良いです。


「春菜!こっちも手伝って下さい」


「はいはーい!」





あれ、わたくしが無理に…とか言ってたくせにまだ手伝わせるんですね。



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