BOOK
□る
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「ノボリさん?うんそう、俺ですトウヤ。…春菜見つかったんで、今から返します。…いや、全然そんな事ないです。んじゃあ」
ブツン
トウヤと話すノボリの声が少しだけ聞こえた。
ちょっとだけ、恐い。
ノボリは…怒ってる。
どんな顔をして会えばいいんだろう。
トウヤは家の前まで私を連れてくると、後は自分で行け、とだけ言って帰ってしまった。
この薄壁1枚の向こうに、ノボリが居る。
それだけで、なんでこんなに緊張するんだろう。
昨日までなんともなかった扉は、ものすごく遠く感じた。
「…ただいま…」
恐る恐る、呟いてみる。
だが、その必要はなかったようだ。
玄関の目の前にはノボリが立っていたのだから。
「…おかえりなさいませ。心配したのですよ」
心配?
そんな言葉がノボリから出てくるなんて思っても見なかった。
すっかり意表を疲れた私は、ノボリにぐいぐいと引っ張られてテーブルの席へと着席する。
「お腹が空いているでしょう?もう一度温め直すのでどうぞ、「…ないの?」
「…はい?」
「怒って、ないの?」
ノボリは一瞬私を見詰めて、それからはぁ、とため息をついた。
「怒ると言うか、今回は何故貴方が突然あのような事を言いだして出て言ったのか全く分かりませんので…」
好きでこんな所居る訳じゃない"
ズキ。
謝ろう、今すぐ、早く。
「…ごめん、なさい」
頭を下げて謝った。
「私、あの時苛々してて、なんでか分かんないけどノボリにあたっちゃったんだと思う。…だから、あんな事、本当は全く全然思ってない。本当に!…だって、ノボリには感謝してるから」
「…春菜、」
「本当にごめんなさい。もし私の事が嫌いになったのなら追い出していいから!なんなら今すぐにでも出ていく。ノボリにこれ以上迷惑かけられない、だから「春菜!」
顔を下げたまま、私は黙った。
ノボリがゆっくりと、私の顔の高さに合うように膝をついてくれる。
そして、肩に手を置いてゆっくりと震える背中を擦ってくれた。
泣いてるの、分かったのかな。
「…わたくしは貴方を迷惑だなんて思っていません。それはクダリも同じことです」
「…け、ど…、ノボリ、に、わたし、酷い事、言って…」
震える声で紡ぎ出した言葉。
けどノボリは、優しい声で言った。
「けどそれは本心じゃないのでしょう?貴方はわたくしに感謝していると言ってくれました。…わたくしも、貴方が居た数日間、少しだけとはいえ…その、楽しかったのは事実です、し」
ノボリにしては珍しい、しどろもどろな言葉の羅列だった。
こんな事あっていいのかな。ノボリが、怒ってない。
よかった、私はまた、此処に居られる。
緊張の糸がぷつん、と切れたのか、私はノボリに抱きついておお泣きした。
ノボリは戸惑う事もなく、私の背中を、まるで子供をあやす様に撫でてくれた。
温かい、心地いい。
ノボリ、ごめんね。
もう二度とあんな事言わない。
まだ私は子供だけど、きっと何時か大人になったら…
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