BOOK

□え
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気付けばカナコタウン。

ああ、自分の生まれた街まで帰ってきちゃったんだ。

あれだけ電車とかバスとか乱用したもんね。

無意識に此処まで来ちゃったんだ。


…とはいえ、家に帰る気もなく、近くの公園のブランコに座りこむ。



はあ、



悪い事、したかな。

ノボリは好意で私を家に受け入れてくれた。

それなのに。私は。

なんて言った?


好きでこんな所に居る訳じゃない。


なんて言葉。

馬鹿な、馬鹿な言葉…

本当に、最低。私の口の悪さを呪った。


(だから直しておけばよかった、って言ったでしょ)


自分を自分で叱ってみる。…効果はないようだ。


…今更、ノボリに合わせる顔、ないよ。

今頃ノボリは呆れてる。

きっとクダリは怒ってる。


なんで、あんな事言ったんだろう。

ノボリに彼女が居る事は知ってた。

最初はなんとも思わなかったのに、初めてノボリと彼女さんのツーショットを見て。

ノボリは私の事、なんとも思ってない。

ただの子供、だとしか思ってない。

期待してた自分が予想以上に愚かで、また自嘲気味に笑う。




ライブキャスターが鳴った。

トウヤからのテレビ電話だ。



「…はい」


「春菜!?」


「…はい」


ライブキャスターの奥で、はあ、と安堵のため息が聞こえた気がした。


「馬鹿春菜、今何処だ」


「…」


「今何処だ!」


「…、」


「…怒らないから、言えって」


「…………………、カナコタウン」


「カナコタウン!?…そこ動くなよ」


ブツン



相変わらず、一歩通行な電話だった。

ああ、また皆に迷惑をかけてしまった。

私、なんて女だろ。

本当に最低…




暫くして、トウヤが空からやってきた。

どうやらアーケオスを使ったようだ。

どうりで、30分で飛んでこれるはずだな。




「春菜!」


「…トウヤ、私、」


「…自分が何したか分かってるんだろうな」


珍しくトウヤが怒っていた。


「帰るぞ」


トウヤは腕を掴み、私をノボリの家へと返そうとした。

けれど私は動かなかった。

帰りたくない。ノボリにあんた酷い事をした私が、一体どの面下げて帰れと言うのだ。


「…春菜!」


「…嫌だ、戻れない…、今更戻れる訳がないよ…!」


怒ると思ったが、トウヤは私の腕を離して、頭をガシガシと掻きながら隣のブランコに座った。

そして呆れた様子でため息をつく。


「…なんでまた、突然家を飛び出したりしたんだ?」


何時になく、優しい口調だった。

らしくない。笑おうと思ったけど、口が動かなかった。



「…ノボリに、酷い事言った」


「…だから、家出した?」


こくり。

無言で頷く。



「…分かってた。ノボリには彼女さんが居て、私なんか子供なんだって。分かってたんだけど、」


その後の言葉は、震えて出てこなかった。

トウヤが来てくれて良かったのかもしれない。

昔から付き合いが長いからなんでも話せる間柄だし。



「…今、泣きそうだよ…」



泣きごとを言うつもりはなかった。

けど、ちょっとだけ。


ちょっとだけ、らしくないトウヤに甘えたかったんだ。



「泣けばいーじゃん」


ぐしゃり、と今とっても酷い顔をしている私の頭を乱暴に撫でる。


「お前が求めてるもんが俺には分かんないけど…」


にか、とトウヤは笑った。


「俺が一緒に探してやるから!」


トウヤの、馬鹿。

そんな事言われると止まらなくなる。



ずっとずっと、欲しかった。

私に足らなかったもの。




「…ばがだよぅ…」







それを、一緒に探してくれるなんて。










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