BOOK

□あ
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「というか、今の欲しいのって台詞超そそるんですけど」


「死ね」「へぶっ」



身も蓋もない、シリアスもないトウヤの言葉に、殴り飛ばしてから悪態を吐いた。

喫茶店で3時間も話し込んでいた私達は、無難にショッピングでも行くか、ってなって買い物を満喫した。

欲しいものは買ったし、今日のノボリの分の夕食も買ったし。

…ああ、そういえばノボリ、今日彼女さんと抱き合ってたな…

ずしり、と重くなる体。

別にいい、ノボリに彼女が居る事自体知ってたはず。




「俺ギアステーション寄ってくけど」


「あ、ごめん。私ノボリの夜食作るから帰る」


「そっか。分かった」



トウヤとはそこで別れた。

両手に大きな袋を持って、家の扉を開ける。

一歩一歩が鉛を引きずっている様だった。

…できれば帰りたくなかったのかもしれない。



「おかえりなさいませ」


「え、」


…ノボリ?

嘘、だってまだ7時前…


「今日は久しぶりに早く帰れたのです。食事はできておりますので」


私の両手の袋にちらり、と目をやってからまたリビングに戻って行った。

…何、それ。

脱力して玄関ににあがった。

買って来たものを冷蔵庫にしまう。…相変わらずすっからかんだ。(あるのは私の牛乳とプリンくらいである)



「…あの、なんで今日は早かったの?」


席につきながらそんな事を聞いてみた。

するとノボリはお味噌汁を注ぎながらこちらには目も向けずに言った。


「今日は仕事が早く終わりまして。…夕食は…まあ、知人が来ていたのでその残り、という事になりますが」


知人?

知人ってもしかして、カモフラージュしてる?

本当は知人なんかじゃなくて、彼女さんなんじゃないの?

隠された事に対して憤りを感じる。

別に、私はノボリの何でもない。けど、なんだろう、この怒り。

分からない、ただ、無性に


(ムカつく、)



「…私には隠すって訳…?彼女さんの次…?」


「はい?」


「馬鹿にしないでよ!!私だって好きでこんな所居る訳じゃない!」


「…春菜、何を、」



ノボリの言葉を聞かずして、私は家を飛び出した。

後からノボリが追いかけてきて捕まりそうになったけど、素早さだけは私の特権だ。

いくら長い足だって小さい所に入り込めば捕まらない。

そうしてノボリをまいた私は、無我夢中に走った。

もういい、ノボリなんて嫌い。大嫌い。いやもともと好きなんかじゃないけど。

ノボリの所為でこんなに苛々して、本当に不愉快。

更には子供と言われ笑われているのが最も腹が立つ。

私は子供なんかじゃない。

私はただ、家族の中には当たり前のようにある、   ″が欲しかっただけなんだ。






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