BOOK

□愛
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へぇー、此処がギアステーションかあ。

確かここ、知ってる。

昔ライモンシティに来た時、ちらっと見た事がある。

中に入った事はないけど。

にこり、と笑ったクダリが、私の手を引いた。

いたた、私の歩幅も考えてくれないと。




中に入ると、地下鉄…のような所だった。

で、でかい…。


「クダリは、ここで何の仕事してるの?」


「ポケモンバトル」


「…それが仕事?」


「うんそう」


なんともまあ、簡単な仕事だった。

しかも本当に好きな人にはぴったりな仕事。

更に説明を聞くと、電車ごとにシングルやダブルなど別れていて、好きなバトルを楽しめるんだって。

へぇ、私も今度してみようかな。…って、駄目だ。ポケモン持ってないや。


「じゃあ、僕仕事!春菜はそこらへんうろうろしてて」


「え?あ、ちょっ…」


連れてきておいてそれかよ!

…えぇ、うろうろとか言われてもなあ…

ポケモン居なきゃする事もないし…

言葉通り何をしようか迷ってうろうろしていると、誰かに話しかけられた。


「春菜?」


「へ?」


「…お前何やってんの?」


あ、トウヤ…だ。

わたし、コイツ嫌いなんだよね…

毒舌だし恐いし。逆らえないし。


「別に」


「とうとう迷子になったのか?」


にやにやしながらそう言うトウヤに怒りを覚えた。

くっそう、トウヤには普段からぺったんこ(主に胸が)やらチビ(主に胸と背が)などと言われて馬鹿にされている。

駄目だコイツ、早くどうにかしないと。

イライラしながら地団太を踏んでいると、カツカツと革靴の音が聞こえて、春菜?と後ろから呼ばれた。


「…ノボリ?」


「こんな所で何をしているのです?というか、何故ここが…」


「クダリに連れてこられた」


なんか、私人の所為にするの多い気がする。

いや、私の所為じゃないんだから別にいいはずだ。


…今回は。


クダリの名前を聞くと、ノボリは大きなため息を吐いて私を見た。

ノボリは背が高いので、私は自然と見上げる形になってしまう。

ってかノボリがでかいんだよ。


「ここ3日間、クダリが遅いのですよ。もしかしたら春菜、貴方は何か知っているのでは…?」


ぎくり。

知っているも何も、思いっきり接触してますけど。

いいえ何も、ぎこちなく答えれば、ノボリはそうですか、と目を伏せた。

そしてトウヤの存在に気付いたように、


「そちらは、トウヤ様?」


「こんちは、ノボリさん」


「本日はどのトレインに?」


「んー、ノボリさん今忙しいみたいだしダブルに行くよ」


「…トウヤ様、」


ノボリが申し訳なさそうにため息を吐く。

…幸せ逃がしてそうだなあ…


「申し訳ありませんが、只今クダリが行方不明なのでございます」


…いやいや、今さっきあっちへ走って行きましたけど。


そう言いたかったが、唾と一緒にごくりと飲み込んだ。



「…じゃあ、俺も一緒に探しましょーか?」


ちょ、気持ち悪い。あのトウヤが敬語なんて。

笑いそうになるのを堪えていると、トウヤがギロリとこちらを睨んだ。

うっわ恐ェ。

すぐさま大人しくなる。

…相変わらず、トウヤの権力には逆らえなかった。

自分の弱さを呪います、神様。



「…ですが…、トウヤ様にご迷惑など」


「あー、全然いーですよ。寧ろ暇してたトコなんで」


「…そうでしたか。では、申し訳ありませんがお願いします」


「はーい。オイ、行くぞ」


「へ?私も行くの?」


小声で声をかけられて、腕を掴まれる。

あー、めんどくさい、なんで私がクダリなんか…と声に出したら殺されるのでもちろん言わないが。

大人しくついていこうとすると、反対側の手をガシッと掴まれた。

痛っ


「お待ちなさい」


「…へ」


「…なんですか、ノボリさん」


うああ、トウヤが睨んでる、ノボリを睨んでる。

恐いよー、超恐いよー。

防衛本能むき出しで、私は目を瞑った。



「春菜はわたくしと一緒に探してもらいます」


「いや、俺がつれてきますんで」


「わたくしが連れていきます」


「俺が、」


「わたくしが、」


何やらくだらないことで騒ぎなっている。

え、ってかトウヤが私を連れていきたいって…まさか、私の事好きなの?

気持ち悪っ、考えただけでもあり得ないわー、ないない。

大体、トウヤが私の事好きだったら耳でスパゲティ食べてやるよ。

まあノボリだって彼女さん居るし、こんな子供、相手にもならないだろうし。


…何か、譲れないものがあるんだろうなあ。


ぼーっと二人の様子を眺めていると、後ろから誰かに抱きつかれた。

驚いて心臓が飛び出たんですけど、一体誰?


「春菜、この二人何してるの?」


「その声はクダリ?…助けてよ、二人ともアンタを探すために私を…って、」



「「「クダリ!?」」」




「なになに、僕人気者?」



びっくりだった。

言い争ってた二人さえ息ぴったりだった。

この後、クダリは数時間ノボリのお説教をくらいました。


効果はばつぐんらしいです。はい。



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