BOOK
□し
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目が覚めると、軽く混乱した。
あれ、ここどこだ?
お父さんは?お兄ちゃんは?
ああ、そうだ。
家出したんだった。
重いため息をついてベッド以外何もないこの部屋を見渡した。
一人暮らしなのかな。いやいや、そんなはずはない。
悔しいけど、顔が良いから彼女の一人や二人くらい居るだろう。
そう考えたら私の事を子供って言った訳が分かった気がする。
つまり、自分の恋人はもっと大人だからお前なんか子供同然とでも思ったんだろう。だから家に泊めたのか。ちくしょう。
どうせ私なんか、背も胸も顔も平均以下ですよーだ。
昨日ノボリに借りたぶかぶかのシャツを脱ぎ棄て、結構お気に入りだったりする下着姿のままリビングへと自分の服をあさりに行った。
いや、リビングじゃないか…シャワールーム?
…あれ、ない。
ない、ないない、何処にもない。
びしょ濡れのはずの私の上下がない!
…くっそう、これじゃ帰れない…
まさかノボリ、私には興味ないとか言っておいて本当は…?
…いやいや、ないない。
だって彼女居るし。
ちらりと横を見ると、洗濯機が動いていた。
…、まさか。
ノボリのシャツを着てとぼとぼとリビングに戻ると、ふとテーブルから食べ物の匂いがした。
…そういえば、何も食べてない。
匂いにつられるようにテーブルを覗くと、達筆なメモ書きと、朝ご飯らしきものが置いてあった。
なになに…起きたら食べること。
…コレ、彼女さんの分なのかな…?
でも、起きたら食べる事って、この家で寝たのは私以外居ないし…と思いたい。
その時、情けない音を出してお腹が鳴った。
まあいいや、そんなことよりお腹が空いた。
私はまだ温かいトースト2枚に口をつけた。
後の事は後で考えよう。そうしよう。
「ねえ、君誰?何してんの?」
「ほへ?」
後ろから聞こえた声。
あ、ノボリだ。
「おはよう…って、このご飯食べちゃ駄目だった?」
「いやいや、意味分かんないこと言ってないで分かってる?ここノボリの家だよ?不法侵入なら警察に突き出すけど」
一瞬、何を言っているのか理解できないでいた。
目の前の人は確かにノボリだった。
だけど、雰囲気と言葉遣いが違う。
しかも、ノボリは黒いコートを来ていたのに、今目の前に居るノボリ(仮)は白いコートだった。
「…ノボリ?」
「僕クダリ」
指をさして聞けば、そう返される。
え、クダリ?クダリって誰?
私は何か不味い事をしてしまった罪悪感に駆られた。
「ねえ、君誰?なんでノボリの家に居るの?」
キツイ口調だった。
違う、この人ノボリなんかと。
でも恐れるに足らない。
「わたしはノボリに連れてこられただけ。不法侵入じゃない」
「…ノボリが?」
「うん」
クダリ、と名乗った男はしばらく考える仕草をして、私を見詰めた。
え、そんなに見詰められると恥ずかしいんですけど。
「ふーん、そうなんだ」
興味なさそうに返事をするクダリを見てから、私はまたこくりと頷いた。
一応信じてくれたみたいだ、良かった。
そして食べかけのトーストにかぶりつく。
きっとクダリは、ノボリの親族だろう。
この家に住んでいるか、はたまたどっか違う場所に住んでいて勝手に入って来れるのだから。
全く同じ顔だし、この推理に間違いはないはず。
ココアを啜り、目の前を見ると、クダリが頬杖をついて私を見ていた。
…何時の間に座ったんですか。
「あっ」
気にしないで食べていたらトーストを1枚食べられた。
「1枚くらい頂戴。僕何も食べてない」
無表情でそういった。
まあ、元々私が文句言えない立場だしいいけど。
…無表情なのはノボリと一緒だ…。
と、思ってココアを啜っていたら、次の瞬間もの凄い笑顔になってトーストを頬張っていた。
ココアを吹き出しそうになるのを抑え、クダリに質問をしてみた。
「ねえ、クダリ…は、ノボリの知り合いか何か?」
「分かんない?兄弟だよ」
相変わらず素っ気なかった。
…え、何?私の事嫌いなパターンですか。
いや、めげるな春菜、頑張れ。
自分で自分を励まし、頬をつねった。
うん、眠気覚ましにはなったかな。
とはいえ、もうクダリに話しかける勇気と心を持ちあわせてはいないので、部屋に戻ろうと思い椅子を立つ。
その瞬間、何かに足を引っ掛けて
「っ!?」
思いっきり、顔面からこけた。
しかもシャツしか来ていない為下着は丸見え。
うああ、恥ずかしい、急いで立ち上がると、案の定クダリがけらけら爆笑していた。
赤面してクダリを睨む。
「な、ななな、何笑ってんの!」
「えーだって君が面白いから!」
さっきとは違う雰囲気。
え、この人二重人格?とか思いつつ怒りは収まらない。
「足ひっかけたらどうなるかなーとか思ったけどまさかあんな派手にこけるなんて!」
けらけらけら。
笑われる度増して行く私の羞恥心。
くっそう…コイツ、うざい。
「しかも、パンツ丸見え」
今更遅いって事分かってるけど、ばっとお尻を隠す。
「黒と白のしましま」
どんどん顔が赤くなっていく。
もうやだ、穴があったら入りたい。…あれ?デジャヴ?
にやり、と笑ってクダリは更に続けた。
「しかもその服ノボリのだよね?それって何プレイ?」
もう駄目だ。
私の人生は此処で終わりました。
どうやらこのクダリという男は、人の羞恥心を煽るのが得意らしい。
「安心しなって。子供のパンツみたくらいで発情する程飢えてないし」
子供、子供、子供って。
私はそんなに子供ですか?
結局クダリが仕事、というものに行く20分くらいの間馬鹿にされ続けたのでした。
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