BOOK

□あ
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あの後、私は引きずられるようにライモンシティにあるマンションの一室に連れて行かれた。

シンプルなリビングにある大きなソファにちょこん、と座らされる。

小柄な私には、そのソファは大き過ぎた。


…それにしても、お節介も度が過ぎると気持ち悪いものなんだな。

それに、こんな年頃の女の子(15歳)を連れてきて一体どうしようと言うのか。

もしかして私、この歳で処女喪失?

しかも見知らぬ男の人に破られるなんて…

さようなら、写真でしか記憶にないお母さん。

私が心から愛しているのはお母さんだけです。


なんて、馬鹿な考えをしていると、上から清潔そうな真っ白いタオルがかぶされた。


「うぶ」


「我慢して下さいまし」


ごしごしと頭をふかれて、息がしにくくなる。

だけど、普段こんな事をされた事なんてないので恥ずかしくて大人しくなっていると、


「存外大人しいのですね。他人の家だからと遠慮しているのですか?」


「…余計な、お世話」


ああ、また可愛くない。

というか、なんでこの人は私みたいな子供に優しくしてくれるのだろうか。

…まあ、言っていることは嫌味っぽいが。

気になっていることを聞いてみると、さあ…気分、でしょうか、と首を傾げていた。

じゃあもしかしたら私は今頃雨の中立ちつくしたままだったんですかね。

…まあ、感謝している事はしているんだけど。



「ねえ、まだ聞いてない」


「何をですか?」


「名前」


「ああ、ノボリです」


ふうん、ノボリかあ。

なんて呼べばいいんだろう、ノボリ?ノボリさん?

少し考えてから、まだ自分の名前を名乗っていないことに気がついた。

遅いかな、なんて思いつつ控えめに呟いてみる。






「……春菜」


「聞いてませんが」


「…ひ、独り言ですけど?」


赤面した私を見た後、ノボリはくっくと笑った。

更に恥ずかしくなって、私は身を縮めた。

ああ、今なら死ねる。穴があったら入りたい。


ノボリはなんというか、策士…なのかもしれない。



「春菜は面白いですね」


「…聞いてないとか言っておいていきなり呼び捨て?」


「嫌なら変えます」


「…別に、なんでもいい」



ああ、こんなに他の人と喋ったのは久しぶりかもしれない。

友達とは最近会ってなかったし、学校も忙しかったし、家族とは会話さえ嫌悪していたし。

二人きりだけど、少しだけ温かい。



「さて、この後はどうしますか?」


「……とりあえずシャワー借して」


「了解しました」



案外あっさりとしていた。

…気を使わなくて楽だ。



「では、寝る時はわたくしの隣の部屋をお貸し致しますので」


まるであっちが借りる方なのかと言うほど、丁寧な言葉遣いだった。

…言葉づかい、直そうかな。







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