BOOK(進撃)

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「…。お前、調査兵団への入団希望は変わらねぇのか?」


「…なに?あんたまさか調査兵団だったりすんの?」


「言わねぇが、もしお前が調査兵団に入ったら…」


「…?」


「周りの奴らは、てめぇに希望と失望を抱くだろうな」








「…それ、私が敬語使わないからって言いたいの」


こいつの言ってる意味が分からなくて頭を傾げる。

単純に考えていいのか、それとも…深く考えるべきなのか。

…どうして私がこいつにここまでの興味を持っているのか自分でも分からない。

男は珈琲を啜ると目を伏せながら、そうかもな、と言った。

…馬鹿な。そんな訳が無い。

こいつの発言はいちいち気に障る。

きっと何か…。…何か、裏を見越して…。




「…ねぇ、あんたって何歳?」


「…年齢を聞いて所属を探るつもりか?」


「…」


図星だ。

もしもコイツの歳がいっていれば憲兵団らへんだろうし、(見た目の感じでも20前だろうけど)若ければ調査兵団か駐屯兵団だ。

とくに調査兵団なんかは死亡率が極端に低いから、駐屯兵団っぽい気がする。


「…余程俺が気になるらしいな」


「……あんたが調査兵団かどうか気になるだけだ」


「…フン。こんな所で言うつもりはなかったんだがな」


「じゃあ言うの?」


「言わねぇが」


「何ソレ…」


「てめぇが勘付いたらそれであってる。そんな深く考える事でもねぇだろ。俺が調査兵団であろうと、憲兵団であろうと何が変わる訳でも…」

「変わる」


「…――」


やっと私に興味を持ち始めた様な顔で、男は足を組み直した。

…そうだ、変わるんだ。…こいつが憲兵団か調査兵団か…それとも駐屯兵団なのかどうかで。

…こいつが憲兵団ならどうでもいい。




でも――。



「…お前が調査兵団なら…。…それも、団の主力の一部となっているのなら…」




私は、コイツを――





「…お前を、任務の時にうっかり刺し殺すかもしれないッ……」




「…」


殺気が籠った目で男を見詰める。

少し驚いたように目だけ見開いたが、特に何を言う訳でもなく目線を前へと戻した。

…なんで、何も言わないの。

私がこんな無礼な事を言っているのに。

普通なら怒って殴り合いとか団解雇になるのに。

…なんなの、コイツはホントに…。

訳が分からない…。

悶々としてアイスティーを啜ると、男は低く囁いた。



「…なら、てめぇになら俺の背中を任せてもいいって事だな?」



一瞬、その言葉の意味が理解出来なかった。

けど、苦し紛れの冗談とかじゃない。

本気で、こうなればいいと望んでいる口調にも思えた。

もちろん私は、唖然とそいつを見ることしかできないのだけど。


「…は、?…なに…言ってんの…?」


「理由は知らねぇが、お前は調査兵団へ憧れや下らねぇ正義で入る訳じゃねぇんだろ」


「…私は調査兵団が嫌いだ」


「とりあえず疑問は置いといてやる。…で、俺の首を狙っていると」


「そりゃ…!てことはあんた調査兵団…!?」


男は無言の肯定の様に話しを進める。



「そんなお前になら、俺の後ろは任せられると思った」


「…な、何言ってんの…。私は…あんたが調査兵団で分隊長や団長とかだったら殺そうって思ってるのに」


「…。…お前は、常に俺の後ろを見ているんだろう」


「…あんたが本当に分隊長ならね」


「なら、お前が俺の後ろを見て、俺が前を見れりゃまず死ぬことなんてあり得ねぇだろうが」


「……っなに…それ…!!」


初めてあった、それもまだ訓練兵団の私が。

力量も技術も分からない私を。




なんでそんな簡単に、信じる事が出来るの…?

もしかしたら後ろを見れないのをいい事に私があんたを殺すかもしれないのに。

分からない。分からない…。

もしかして調査兵団の奴らは皆こうなのだろうか?

全然知らない私を信じるのだろうか。





「…まぁ、立体機動なんかでは殆ど背中合わせにいた方が不利だがな」


「……なんで、お前は簡単に私を信じる事が出来る?」


「あ?まだ信じてねぇよ。…まぁそのうち…お前がうちに入ってきたら……、初めのうちだけは面倒を見てやらん事もないが」


「面倒を見てやる?…なんなのそれ。あんた何様なの。調査兵団のくせして英雄気取りかよ。ムカつくんだよ。お前らのせいでお母さんは…お前らのせいでッ…」


「…」



ああ、駄目だ。

こんな所で掴みかかりそうになるなんて。

落ち付け。感情的になるな。コイツが2年前居たのかも分からないんだ。

…居ても居なくても、嫌いなのに変わりはないけど。


…でも、正直言ってしまえば、私は苦手だ。

これが私の班の隊長になるなんて…嫌だ。命令を聞ける気がしない。

常に単独行動に走るだろう。


守れるものといえば、壁外調査での隊列くらいだろうか。

これは流石に全体の指揮に関わるもので下手に動けない。

だが、街に巨人の出現があった場合くらいなら、多少乱しても分からない。

…。そう、現実では何があるのか予測不可能なのだから。

後で結果として臨機応変に動きました、とかいう言い訳を言えば咎められることはない。





「…なら、なんで調査兵団に入る?」


「…なに?」


「そんなに調査兵団を憎んでるんなら、てめぇは何故調査兵団を希望する」


「…そんなの…決まってるでしょ…」









そうだ。

私の生きる糧は唯一つ。

そっと、母の形見である指輪とはめている人差し指を撫でた。










「巨人と…、調査兵団の偉い奴ら全員、私が消してあげたいから……!!!!!」






「…――ほう」


横眼で私を見ながら、空になった珈琲カップをテーブルに置く。

そして、何を思ったのか私に向き直った。



「そう思うのは勝手だ。お前の目標がそれなら止めはしない。…だがな……お前のレベルじゃ、人間である分隊長一人ですら殺せねぇよ」



現実を突き付けるかのような冷酷な言葉に、私は怯むことなく睨み返した。

それは…私の力じゃ調査兵団に入っても活躍できないってことか?

新人のくせに調子に乗るなって窘められたのか?


立ちあがって出入口に向かおうとした男は一度だけ振り返った。


「…もう一つだけ言っといてやる」


「…なんだよ」


「あんまり唇を噛むな。悪いくせは悪い事態を引き起こす。……お前が調査兵団に入団するまでに直しておけよ」










そう言って、背中に翼を描いた男は去っていった。






…これが、私が憎むべき調査兵団のエース、リヴァイ兵士長との、初めての出会いだった。

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