BOOK(進撃)

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「おぉーい!」



バタン!


扉が大きく開く音に目が覚める。


そいつは無断で入ってきたのにも関わらず、私の体をゆさゆさと揺らし始めた。



「起きて起きてー!」


「ん…、」



明け方まで勉強をしていたからすごく眠い。

…誰…?

今日は確か、訓練は昼からのはずだ…。



「…なに………?」


「お、やっと起きたか!全くこんな時間まで寝て…不健康極まりないな」



目の前の女はそう言ってため息を吐く。

…なに、コイツ。誰?

なんで私は誰とも知らない奴に説教されてるの?



「………誰?」


「ハンジだよ、ハンジ・ゾエ!…やだなー忘れたの?」



しばらく考えて、昨日の変な奴か、と納得する。

勝手に私の仲間になる、だとかほざいていた奴。




「……なんで、勝手に部屋に入ってくるの?」


「何度ノックしても出なかったから」



けろり、と私の質問に応えるハンジ。

…ノックして出なかったのなら、出直すべきだ。

勝手に入ってくるなよ。

嘆息して立ち上がる。

今日はギリギリまで寝る予定だったがしょうがない。

起きてしまったのならもういい。




「…あんた、私に何の用?」


無表情で聞いてやると、ハンジはそうそう!と手を合わせた。

…きもい。


「あのね、今日は私と君が料理当番だから練習しておこうと思って!!」



「…私と…君?」



「うん、私と春菜」




…こいつは何言ってるの。

私は今日料理当番なんかじゃないし、だったとしてもこいつと一緒では、ない。

…誰が一緒だとしても、そいつと仲良くお料理ごっこに興じるつもりなんてないけど。




「…私あんたと一緒じゃないよ」


「ああ、私が変えておいたの。別にイイでしょ?」



目の前でにっこりと笑うハンジを見て嘆息する。

…なんで私なんかを。

…流石気持ち悪い女だ。



…百歩譲って、変えて置いたくらいはいいとしよう。

それで料理の効率や質が落ちるわけではないから。


だが。




「練習って、何?」



そう。練習。

私達は訓練兵団になってからもう2年は立っているし、料理だってもう慣れているはず。

…いや、ここまできて慣れていない女は、逆におかしい。

そんな事はあり得ないだろう、という私の予想を裏切り、ハンジは舌を出して自分の頭を叩いた。




「実は、芋の皮むきができないんだ」




…。

致命的だ。

この女、遭難した時に生きていけない。




「…………で?」




だからと言って私がその芋の皮むきの練習を手伝うなんて事は絶対に嫌だし、芋の皮むき程度ならば一人で出来るだろう。

私が手伝って何かが変わる訳でもないし。寧ろ私が手伝う事なんてあるのか?




「意地悪だなー!一緒に練習しようよって言ってんのに」


「嫌だ」


「そこをなんとか!」


「一人でやれよ」


「お願い春菜様ぁ!」




…なに?

なんでこいつは、芋の皮むきの練習相手くらいで土下座してんの?アホなの?

…。

ああもう。面倒くさいな。

私はあえてハンジが居ない方向を見て、渋々了解する。



「…分かった。だからそのみっともないポーズ止めて」



「春菜ありがとぉおおお!!」



「ちょ、うざいきもい抱きついてくんな!」





…まじでなんなんだ。































「ねぇ〜、これどう?春菜ー!」


と言って、ハンジは私に芋を見せてくる。

……どうやったら芋がこんなに細くなるのだろう。

私は無言の否定としてため息をつく。

それを見たハンジは、がっくりと肩を落としてもう一つの芋を手に取る。


…一体何人分の芋を無駄にする気だろうかこのアホは。


…しかもなんか、包丁を持っている場所が刃から離れすぎ。

そんなので上手にむける訳ないだろ馬鹿。

…って、何処からむいてんの?

真ん中から向いたら、上下に分かれて皮剥くのが二度手間になるでしょうが。



…………………。


…、見て居られない。



ハンジがもつ芋と包丁を奪い取る。




「え?」



「ハンジのやり方がよくないから指摘する」



それからあーだこーだと言って、ハンジにびしばしと厳しい言葉をかけてやった。

…ハンジは何処か楽しそうに、それでいて真剣に芋の皮剥きをやっていた。



相当上手になってきたハンジを見て、珈琲を啜る。

…これでもう、私はいらないだろう。

必要最低限の事だけ教え、上手くなってきた過程を確認すると、私はエプロンを外した。



「じゃあ私は戻る」


「えっ、もっと居てくれないの?」


「めんどい。なんで私がお前にそこまで尽くさなきゃいけないの?」


「ぶー、いいじゃんよー」


「無理。勉強したいし」


「そんなんじゃ恋人できないぞ無愛想め!」


「はぁ?余計なお世話なんだけど変態メガネ」


「変態ってなんだよ!大体、私はちゃんとした名前があるんだぞ!なんで呼ばないんだ!」


「……。…名前同士でなんか、呼びあいたくない。…吐き気がする」




顔を歪ませれば、ハンジは芋をぎゅっと握りしめていた。

…知らない。

ハンジなんて仲間じゃない。

ただ、私がこいつの言うことに応じたのは、何時までも私の部屋に居座られても迷惑だっただけ。

…武力行使は…、もうすぐ卒業なのに面倒事を作りたくないだけ。


仲良くなりたいとか、そういうのが私は嫌いだ。

ハンジがそうやって私を振りまわすのだってきっと私と仲良くなれたらな、って思ってるんでしょ?

でも私は仲間なんていらないし欲しくもない。

結局いつかは自分の枷になって、そいつの所為で自分が傷つく時が来るんだ。













…自分の唇を噛みしめた。





(いつから私って……、こんな人間になったんだろ…)

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