BOOK(進撃)

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―――840年。


私は、おじさんの反対を無視し、第102期訓練兵団編成へと入隊した。

おじさんが言った通り、訓練は過酷だった。

だが、なんて事はない。

ただの普通の軍事訓練と他ならない。

立体機動だって、コツさえ掴めば楽なものだった。



…ただ一つ、私は仲間というものが嫌いだった。

言いたい事をはっきりと言い、常に他人とは交わらない行動をしていたら自然と、私の周りには誰も居なくなっていた。

…ううん、誰も居なくなっていた、所じゃない。

…初めから誰ひとりとして、私の周りには居なかったんだ。

別にいい。…否、こっちの方が身軽でいい。

仲間同士の友情なんて、巨人殺しにとって何の得があるの?

最後の最後で、そいつらの所為で死んでしまったら元も子もないだろう。


……、お母さんは、そういう奴らの所為で死んだ…ッ!


…お母さんが、教えてくれたんだ…!

そういう奴らとつるむ事は結果自分にとっての害を生むだけだって…。

だから、仲間なんていらない。

…寂しくなんか…ない。











「そこまでっ!!」


夕方、格闘術の訓練がようやく終わる。

昨日、明け方まで技巧や立体機動の構造や有効な使い方、場所などを勉強をしていた為睡眠時間は他と比べると極端に少ない。

…結果、格闘術の訓練中は集中するが、終わった途端にガス欠のように貧血を起こしてしまう。

今日も…、だ。

周りの皆が寮へと帰っていくなか、私は覚束ない足取りで水飲み場へと向かう。


…だめ、…。


たおれ…、る…。




バタンッ




やば、気持ちわる、…い。

目がぐるぐる回って、頭がふらふらする。

これは完全な貧血だ。

(クソ、)

自分の馬鹿さ加減を呪った。

この1年間、102期訓練兵団の中でトップの成績になるため日々誰よりも努力してきた。

誰の手も借りず、誰に手を貸すこともなく。

一人でずっと母の仇を追い続けてきた。

そしてもう少しで全訓練課程が修了するとなった所で、これか。


私は馬鹿か。

とんだ間抜けだ。


自己管理が出来ない兵士が、トップになんてなれる訳がない。

拳を握り歯を食いしばり、なんとか立とうとする。


(駄目、だ…。平行感覚、が…、おかしい…)


例えば…そう、遊びでぐるぐると回った、その後のような感じだ…。

気持ち悪さも倍増してきた…。

このままじゃ、誰かに見つかって…、!





「…おい、あれ…倒れてんの、春菜じゃねぇか?」

「はぁ?んな訳ねぇだろ。あの春菜が…って、マジだ!」






「…!!」



見つかった…。

もう一度、自分の馬鹿さを呪った。

自分自身に呆れてため息が出る。

生憎、気付いたのは3人の男だけ。

…どうやらこいつらは、格闘訓練で私に勝負を挑んできたので背負い投げてやった奴ら…っぽい。




「おい、ほっとけよ。あんな化け物女」


「そうしようぜ。腹減ったし」



唇を噛んだ。

…1年前からの…、私の癖だ。

何か辛いことや苦しいこと、泣きたい時があれば唇を噛んで我慢する。

直そうと思った時などないが、もう無意識の域にまで達していた私の癖。



…。

何が、苦しいかって。

別に苦しい事なんて、一つもない…。

…仲間なんて…。


所詮私に、仲間なんて…。







「おい、大丈夫か?」










男のごつごつとした手のひらが、ゆっくりと私に差しのべられた。


…驚きで顔をあげる。


そいつは、確かに私が背負い投げた奴だった。

おまけに…砂までかけたハズだ。

後ろの男たちはぎょっとしている。



「…立てないんだな?掴まれよ」



…どうして…。

なんでお前は…、私に…。


「おい、正気かよお前」


「まあそいつ、顔だけは美人だからな」



後ろの奴らを殴り殺してやりたかったが、唇を噛んで我慢した。

…今は…、この男が言うとおり…、立てないのだ。

悔しさに顔を歪めれば、目の前に差し出される手がもう一度前へと出る。

男は、手をとらない私に苦笑を浮かべている。

でも、何時まで立っても手をひっこめようとはしない。
















「俺を…信じれないのか?」




























…分からない。


分からないけれど、一度だけ。








そいつを、信じたいと思った。








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