BOOK(進撃)

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おじさんは路地裏でようやく私を下ろした。


「おじさんどうして!?あいつらは私のお母さんを見殺しにしたんだよ!!」


あいつらが私のお母さんを見殺しにしたのはもう分かっている。

だから、せめて殴ってやろうと思った。

私にはあの人達は殺せない。

あの人達もそれなりの恐怖を経験して居たんだ。

その恐怖を味わったことのない私は、何も言う権利はないかもしれないけど。

でもどれだけ強い人であったとしても、どれだけ偉い人だったとしても、私は許さない。


調査兵団を、男の人を…ッ!!




「落ち付け」


「何よおじさんは悔しくないの!?…………おかっ、さ……が…、死んだんだよぉ……ッ…!?」


「…落ち着くんだ」


「おち、つけっ…ないよぉ…!!…………っふ…、ぅ…うあああああああ!!!」




私は、泣いた。

おじさんの胸で。

おじさんは何も言わずぎゅっと抱きしめてくれた。

私も、お母さんの腕をぎゅっと抱き締めて、ずっと泣いていた。




今、会いたい。

すごく…お母さんに。






子供だから、行き場のない怒りと悲しみと寂しさを全部おじさんに押しつけることしかできなかった。


だけどおじさんもそのうち、私の肩に顔を埋めて微かに震えだした。



「…おじ…さ…ッ…?……泣いて…る、…の…?」


返事は返って来なかったけど、その変わりにおじさんが乱暴にぐしゃぐしゃっと私の頭を撫でた。

おじさんも泣いてるんだ。

そう分かった瞬間、なんでか分からないけど涙が止まった。

それでもまだお母さんの事を考えると、すごく辛いけど、唇を噛んで踏ん張った。



私は…私たち人類は、戦わなきゃならないんだ…。








「…ねぇ…、おじさん……、怒らない…でね」


決めたんだ。もう、何があっても私は揺るがない。

調査兵団の、トップをとるまで。



「私ね…、調査兵団に…なる…」


「ッ駄目だ!!」


顔を真っ赤にしたおじさんが、私の肩を掴んだ。

その声に少しだけ脅えてしまったけど、また唇を噛んで声を発した。


「もう、ずっと見てるのはやだ。お母さんの仇を取りたいの」


「駄目だ!!駄目だ駄目だ!!何馬鹿な事言ってる!!絶対に駄目だ!!」


どうしておじさんがこんなに反対するのか、私には分からなかった。

でも、おじさんの意志は、私が入隊するのには関係ないよ…。

だって私とおじさんは違うもの。

お母さんを想う強さだって、戦う事の必要性だって。


「おじさん。……、私、もう何を信じればいいのか、分かんなくなった…」


「…俺を、信じればいいだろう…!!」


「…おじさんだって、何時か死んじゃうかもしれない…」


「…その時まで俺が守ってやる!…お前、それでもいいのか!?母親の名前は調査兵団の中で知れ渡ってる!お前がその娘だと知れば、お前はいわれのないいじめを受けるのかもしれんのだぞ!!」


「…どうして…?おじさんには、私なんかどうでもいいじゃない…」




「ッ、お前の母親から!!ずっと言われているんだ!!”もしあの子が私を見て調査兵団になりたいと言っても絶対に止めてくれ”ってな!!」




「…お、母さん…が…?」


「…そうだ。生前から言われていた。お前がもし調査兵団になったら死ぬ確率は80%を越える、とな。お前の母親は強かった。だから分隊長にまでなれた。それは素質があったからだ。…だがお前が本当に過酷な訓練を耐え、立体機動を使いこなせるかなんて分からないんだぞ?」





お母さんがそんな事を…?

やっぱり、私を心配してくれたって事だよね…?



…だけど、お母さん。

私はお母さんを殺したあいつらが、許せない。

お母さんの体を美味しそうに食べる巨人が許せない。




だから私は、おじさんの腕を払った。




「そんなの…私が立体起動をうまく使いこなせない、なんて事も、誰にもわからないよ…」



「…春菜!!」



おじさんを通り抜けて、走って家まで帰る。

もう嫌だった。やめて欲しかった。

同情で私を守ろうとするのは。

結局おじさんだって、お母さんの死よりも、世間体を気にしてたじゃない。



おじさんに何が分かるの。

私の気持ちなんて私しか分からないよ。




家の鍵をかけて、誰にも入られない様にした。




































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