BOOK(進撃)

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彼女は当時、12歳だった。






――――私のお母さんは調査兵団。

とっても強くて、つよーいの。

噂で聞くんだ、お母さんの名前を。

それを聞くたびにお母さんを思い出して寂しくなるけど、でもいいの。

私は小さいながらも分かってる。

お母さんは私の為に戦ってくれてるんだって。


…でもね。やっぱりね。

お母さんに会いたいのが本音なんだ。

だから私は、憲兵団であるお母さんと仲の良いおじさんに頼んでるの。


「壁の上に乗っけて!お母さんがみたいの!」


初めはがっつり断られたけど、壁外調査の度に乗っけて、と頼んでいたら、秘密だぞ、という条件付きでのっけてくれるんだ。


壁の上はすごい高い。

だから怖くていつもおじさんに捕まってるけど、お母さん見たさについつい下を覗きこんじゃう。



「…お母さんだ!生きてる…」


やっぱりお母さんを見つけると泣いてしまう。

あの腕で抱き締めて欲しいけど、お母さんが私に会いに来てくれるのは月に1回あるかないか。

…それほど忙しいって事だよね。











そしてこの日の壁外調査も、私はおじさんに頼んでお母さんの帰りを覗かせてもらった。

私じゃあのいっぱいの人達の中に入ってもお母さんを見る事が出来ないから。



「…見えるかい?」


「…ううん、」



…、おかしい。

お母さんが、お母さんが居ない。

いつもより団の人達の空気が重い気がする。

…嫌、だ。


悪い予感がして、私は急いでおじさんに下ろしてもらうよう頼んだ。




すごく、すごく嫌だ…。

なんだろう、この胸の感じ…。





ぎゅっと自分の胸を抑えて、門へと走った。



やっぱり人がたくさん居て私じゃ中を覗けない。

近くの木箱に乗って背伸びして、ようやく頭が見えるくらい。


(お母さん、お母さん…!…どこ…?)


必死にお母さんを探す。


…居ない。



帰ってきた馬に乗る人達の会話が、上に聞こえてきた。



…やだ…やだやだ…!!




私は人をかきわけて、馬の先頭へと乗り込んだ。

先頭の人が、私を見て驚いている。




「お母さんはどこ!?ねぇ、お母さん居るんでしょ!?お母さん、お母さんっ!!」


「…君の名前は…」


「…団長、この子は分隊長の娘です」


「…そうか。…おい、あれを出せ」


騒ぎ続ける私に、一人の男の人が細長い、中に何かが入っている布を差し出した。


「…!?なに、これ…、お母さんを出してよ!!!!」


「…その中を…、開けてみなさい」



涙を拭いながら、きっと目の前の人を睨む。

しかしこの人はただ静かに私と、その布を見詰めていた。


言われた通り布の中を見てみる。





「…、う、で…?」



その中には青白く、やせ細った腕。

…人差し指には見覚えのある指輪がはめられていた。












「お…母さ…、」













はっきりと、分かってしまった。

お母さんは、今回の壁外調査で戦死したのだと。




「君のお母さんは…、勇敢にも錯乱した兵士2名を助けようとして、…死亡した」



「…、」



お母さんの腕を、ぎゅっと抱きしめる。

抱き締めて欲しかったんだ、ずっと、この腕で。

なのに私は今、巨人に食われ、バラバラになったお母さんの腕を抱き締めている。


唇を血を出るほど噛み、必死に涙を抑えようとしたけれど駄目だった。

容赦なく頬を滑り落ちて行く。



「ひっく…、…おか、あ…さ…ッ…」







この瞬間、私は調査兵団というものを激しく憎んだ。






「…君のお母さんは、強い人だった。…本当に、すまない」




団長らしき人がそう言ってきた。

その声からは、本当に申し訳なさが伝わってくる。



だけど私は、幼い身で分かってしまっていた。





「…すまな、い………?…っ黙れ!!私のお母さんを見殺しにしたくせに!!傷ついたお母さんを無理やり助けに行かせたくせに!!」



その叫び声に周りの人達は驚く。

お母さんは強いんだ。

何があっても死ぬ訳ない。

そんなお母さんを殺せるのは、上の無茶な命令の所為だ。

お母さんは悪くない…!!



「何が…ッ、何が調査兵団だ!!自分らの家族以外どうでもいい殺人者の集まりのくせしやがって!!!私のお母さんを返せこのやろぉぉおーーーーっ!!!」



そう泣き叫ぶ私に、後ろから二人の男が出てきて私を捕まえる。

暴れながら抵抗を続けていたが、とある人物が私の目の前に現れた。





「すみません。この子は私の知りあいです」


「なんだお前は!…、この女は職務侮辱だぞ!!」


「その点に関しては申し訳ない。…だが、君たちにも非があるんじゃないか?」


「…な、に…」



私の目の前に現れたのは、おじさんだった。




「その子の母は私の友人だ。その友人を見殺しにしたのはお前らだろう。ひよっこの腰抜けめ」


「…っく、」



反論出来ないと言うことは、やはり私が言った事はあってたんだ。

腹の中にドス黒い感情が生まれて、やりきれない思いが涙で溢れる。



「…とにかく、私は憲兵だ。その子が暴挙を行ったというのならば私に任せて貰おう」


「…ッ」


恐る恐る、力を弱めた兵士。

私はその隙に勢い良く離れた。

…顔を覚えた。






あの二人がお母さんを見殺しに…っ!!








掴みかかってやろうとしたその時、おじさんにひょいっと持ち上げられてその場から逃げるように路地裏へ回った。














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