BOOK(進撃)

□プロローグ
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私は調査兵団のペトラ・ラル。

その中でもリヴァイ班にあるが、今はエレンという人類の希望のため調査兵団特別作戦班にあたる。

このご時世だ。希望なんて儚い。

なんせ人は巨人の出現によって簡単に死ぬのだから。

巨人に食われなくても、人は死ぬ。そんな淡く儚い希望にそう易々と乗っかる人は少ない。

だけど私達は信じなければならない。

あのリヴァイ兵長が、信じているのだから。


「…春菜、起きてー」


「ん…」


春菜分隊長。

この人もまた調査兵団であり、少し前まではリヴァイ班に配属していたという。

実力は、あのミカサという人物よりも遥かに上回り、リヴァイ兵長に勝るとも劣らない。

だが、まだスピードと状況判断に難があるらしくそこの部分が未熟だという。

本人曰く、状況判断だけは昔から苦手らしい。

…私にとってはスピードも、あの的確な指示も状況を素早く理解できているからこそだと思うが。





「早く起きてー、今日は会議があるんでしょ?」


「…んー……あと五分…」


「兵長に怒られるの私なんだよ?はい起きて起きて」


「へい…、ちょう…?」




ベッドに寝そべった春菜の体がぴくり、と反応する。

ハッとした。

この人に兵長という名は禁句だ。

誰が言うまでもなく、この団内で無言のルールかのようなもの。

なぜなら、春菜はあの名を出すと必ず―――




「兵長いるの!?まさか私に会いに!?どこ!?何処に居るの!?兵長、兵長ーーー!!」




…暴走して、手がつけられなくなってすごく面倒だから。

ため息を吐いて、リヴァイ兵長はここには居ないよ、と諭す。

それを聞いた瞬間、世界の終わりの様な顔をしてがっくりと項垂れた。





「兵長が私に会いに来てくれたかと思ったのに」


「それは残念だったね。さ、早く隊服に着替えて」


「うぅ…ペトラの鬼ぃ〜」


「鬼でごめんねー」





ぶつぶつ言いながらも素早く隊服に着替えた私と共に、部屋を出た。

…ついでに言うと、この人はすごく、背が低い。

そして、すごく美人だ。

リヴァイ兵長もかなり小柄なのだが、春菜はそれよりも小柄。

しかも…細い。

何を食べているのかと言うくらい。

それでも数年の間鍛えた体なのだから、きっと体はできてるんだと分析する。



「はあー、兵長に会いたいな」



…時々、本当にすごいと思うのは、この人が調査兵団の分隊長で、しかも私の隣をちょこちょこと歩いている事だ。

巨人と対峙した時ほど怖い形相はないが、何故かリヴァイ兵長を少しでも貶すような発言をすると本気で怒ってくる。

まあ、本人に聞こえるとアレなので言わない様にしているが。

というか、あの人に対する悪口を言う人なんて沢山いると思うが私達はあくまで守る側だ。

リヴァイ兵長は私の上司であり、誇るべき存在なのだから。


横眼でちら、と春菜を見てみる。

…相変わらず小さい。

そんな華奢な体つきで巨人と戦えるのだろうか。

なんて私の心配を余所にこの人はそれをやってのけるだろう。

…、でも、どうして?


どうして、春菜は調査兵団へ入ったんだろう。

やはり、過去になんらかの事件があったのだろうか。

どちらにせよ、この人が調査兵団へと憧れて入ったのはきっと間違いない。

だって、春菜は、リヴァイ兵長の事があんなにも好きなのだから。




「あっ…、もしかしてあれ、兵長!?」


春菜の言葉に顔をあげる。

…確かに兵長だ。




「やったー!朝から兵長に会えるなんてラッキー!!」


そう叫ぶと彼女は、兵長へとものすごい速さで走っていった。

…やっぱり、ね。

きっとこの人は昔からずーっと、兵長の事が好きで、信頼を続けていたんだ。

だってこの光景を見れば誰だってそう思うはず。

兵長にも物怖じしないその性格に少し羨ましく思いながらも、敬礼する。




「おはようございます」

「ペトラか。おい、この気持ち悪い女をどうにかしろ」




兵長は彼女を足で踏みつけていた。

…あれ、さっき兵長に飛びかかってなかったっけ。

…ああ、避けられたのね。




「えーと、その人は無視しても大丈夫です。それより今日の議題はなんですか?」


「え、ペトラ無視すんの!?この私を!?…うぅ、兵長ぉ!どうせなら抱き締めてぐえ!!」




兵長が踏む力を思いっきり強めた。

春菜は苦しそうに床をばんばん叩いているが、私の言葉通り無視し、兵長は苦い顔をして告げた。





「今日は会議と言う名の発表会だ。アホらしい」

「…それは、どういう…」


「エレンの利用方法についての、上からの命令を伝えるんだとよ」

「!利用、ですか」





…気のせいだろうか。少し兵長が不機嫌なのは。





「へいちょ、それはあの、エレンと言う少年についてでぐええ!!」


「黙れチビ。てめぇは喋るな」


「んだとコラぁああ!!切り刻むぞテメー!」




その言葉が春菜から出たのに驚きぎょっとする。

しかし兵長は特に驚きもせず、さらりとスルーし、更に抉った。

…傍から見るとすごい図なんですが。



「…目上の者に対しての礼儀がなってねぇな。今から躾てやろう」


「う、嘘です兵長!ステキですスキです!」




兵長はその言葉に顔を歪める。

うわ、もっと酷い事をされるんじゃないだろうか。

そう思った私は、少し目を瞑る。


…だが以外にも、兵長は足をどかした。




「気持ち悪い事言ってないで、さっさと仕事に戻れ」

「兵長…私達やっぱり愛し合っているんですね…」

「…話しを聞け」

「はい!私も好きです!」

「…そうか。じゃあお前はとりあえずそのおめでたい頭を直すことから始めろ。行くぞ、エルヴィン」




後ろに居たエルヴィン団長がくすりと笑う。

…あの団長が少しとは言え笑うなんて。



「フフ、私としてはこの微笑ましい光景を見て居ても構わないが」

「は?…今日は会議だろうが」

「よいパートナーができてよかったな、リヴァイ」

「ッチ…。どいつもこいつも話が通じねぇ…」



兵長が去っていこうとすると、春菜がぎゅっと抱きついて止めた。



「へーいちょう!待って下さいよぉー」


「離せブス。服が汚れる」


「うふふ、兵長の体あったかいですー」



ついに兵長がきれたのか、今度は春菜の腕を肩に回し、背負い投げた。



「ぶへ!!いだぁああい!!背中…背骨折れたぁあ!!」


「フン。今日の会議に遅れるなよ、春菜」




…今度は本当に去っていった。

…あーあ。馬鹿だなあ春菜も。

朝からあんなに踏まれて投げられて。

ちら、と見てみれば予想とは大きく異なった表情で嬉しそうに目を輝かせていた。

…この人、マゾなの?




「今日も見事に踏まれてたけど…」


「まあね!兵長と私はただならぬ関係だからね!」


「…違う意味でね」


「なんせ、固ぁい愛で結ばれてますから!」


「うん、ほんと、ストーカーにならないように気をつけて」



そう忠告してあげると、春菜はパっと雰囲気を変え、切なそうに俯いた。



「…兵長はさ、…本当、素敵なんだ。…こんな私が関わっていい人じゃないくらい…」




何の、話だろうか…?

けれど何故か春菜の纏う雰囲気がなんなのか安易に詮索してはいけないような気がして。




「…っていけないいけない、変な話しちゃった!ごめんねペトラ!……また後でね!」




彼女はそう言うと、兵長の後を追いかける様な形で走っていった。

また兵長に抱きつくのか、と思ったけれど違う。

…分からないけれど、違うと思った。
















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