BOOK(進撃)

□3
1ページ/1ページ











昨日は、すごく兵長に急接近できたみたいで嬉しかった。

その事を恥ずかしながらも食堂に居たハンジに告白すると、ハンジは興奮したように目を輝かせて聞いてくれた。

…若干恐かったけど…。



「…あ、あのですね。ハンジ。この事は誰にも言わないで欲しいんです…」


「へ!?なんで?他の女に見せつけちゃえばいいじゃん!」


「む、無理ですよっ!そんなこと、できる訳ないじゃないですか!」


「ふぅん。…ま、いいけど」


「…ありがとう」


ほっと安心してお礼を言う。

ハンジは珈琲を啜りながらんで?と眼鏡を光らせる。


「え…?」


「その後どこまでいったのさ」


「ど、どこまで…?ど、どういう意味ですか…?」


「あーん分かるでしょ!男と女の…きゃっ」


「い…、いくわけないでしょう…!」


ハンジは相変わらず恥ずかしげのない…。

どうしてそういう事を普通に言えるのだろう。

この食堂には、エレンだってペトラだって普通に来るって言うのに。


「あ、春菜、ハンジさん。何の話ですか?」


「エレン…」


ほら、やっぱり来た…。


「あ、皆ここにいたんだ。…て、もしかして何か話してた?」


「ペトラ…」


やはり。

皆この時間に起床するのは同じなんだ。


「エレーン、ペトラー、丁度いい所に!今は春菜とリヴァイのラブラブ作戦を考え中だよ!」

「違いますよっ!」


「…ラブラブ…ですか」


エレンが苦笑を浮かべ、ペトラはぎょっとして私を見る。

そりゃそうだ。

あの人とラブラブなんて言葉は結びつかない、水と油のようなものなのだから。


「エレン、次はどんな作戦を考えよう?」


「え、俺も入ってるんですか」


「エ、エレンは関係ないですっ、止めてください、ハンジ!」


「えーいいじゃんよー」


「よくないですよぅ…」


私が。


「ね、今度はもっと親密にさせてあげるから!!」


「私で良かったら手伝うよ、春菜!」


「…お願いですからぐいぐい来ないでください…」


なんて、涙目になっていると、奥の部屋から兵長が歩いて来た。

このタイミングで!?

焦っていると、兵長は入口の前で止まった。

どうやらハンジの暴走に顔を渋めているようだ。


「なんなんだ、この騒ぎようは…」


「あっ、リヴァイー!こっちおいでよ、珈琲一緒に飲もう!!」



兵長は嘆息しながら私の横に座った。

…。や、やっぱりドキドキが止まらない。

というか、挨拶とかしなきゃいけないよね?

少しだけ助けを求めてちらりとハンジを見ると、彼女はエレンと巨人の話について熱く語っている様だった。

…うぅ。



「…え、えと…リヴァイ兵士長、おはようございますっ…」


「ああ、おはよう」


「…」


「…」



か…会話が続かない…!



「あのっ…、こ、珈琲持ってきます!」


私は椅子を立ち、珈琲を淹れて戻ってきた。

兵長に渡すと、悪いな、と言われた。

…滅相もないです…兵長…。



「ペトラ、あの二人イイ感じになってきてない?」


「うーん…イイ感じっていうか…普通に会話してるだけというか」


「って、邪魔しちゃ駄目なんじゃ…」


「うるさいなー、エレン!黙って私の作戦に肩入れしろ!」


「い、嫌ですよ!俺、他にやりたいことあるんですから!!」


「だいじょーぶ!!そんなの何時でもできるでしょ!?ね、エレン、お願い!ペトラも言ってやって!」


「エレン、お願い、手伝って!!」


「ええーーーーーー!!」






逃げ回るエレンに、追いかけるハンジ。

…一体何してるんだろう、この人達…。

兵長もうんざりしながら珈琲啜ってるし。



「春菜ー!エレンが逃げたー!」


「…あ、そうなんですか?」


「すぐ捕まえてくるからね、待ってて春菜!!」


「ハンジさん、ここは二人の為にも戻らない方がいいんじゃ…」


「!!そうだね…、やっぱりこのまま退散するよ!じゃあねお二人さんー」




騒がしい3人が食堂から出て行き、部屋はしーんと静まり返る。

…うっ…、気まずい…。

あの3人、個性が強烈でうるさかったから…、静かさが余計目立つ…!

このままじゃつまんない女って嫌われるかも…。

何か話題…話題…!!



「…今日は何もないのか?」


ぽつり、と兵長が呟いた。

もしかするともしかして、その言葉は私に向けられたものなのかな。

だって一応この部屋には私達しか居ないし…。

慌てて何もないです、と返事をすれば、兵長は珈琲カップを飲みきり、私の方を向いてくれた。

目と目が合うその近すぎる距離に、私の心臓がバクバクと音を立てて鳴り始めた。



「じゃあ、行くぞ」


「…へ?…どこに…ですか?」


「お前の好きそうな所だ」


「私の好きそうな…って、えっ?」



椅子を立った兵長に手を掴まれて、廊下を二人で歩く。

…ヤバい。なんだこれ、なんだこれ…。

兵長と手、繋いでる…。

手汗かいてないかな…。

行き先よりもそんな事が頭の中でぐるぐると回った。


そうして終始ドキドキしっぱなしだったが兵長が歩を止めたことにより、手がするりと解かれる。


(あ、…)


不意に外された手を名残惜しく思い、じっと自分の手を見詰めた。

兵長はそんな私を不思議に見詰めてからついたぞ、という兵長の声に顔を上げる。



「…資料室…?」


「ああ。…お前、部屋の中が巨人やら人類の歴史やらの資料で溢れかえってたからな。興味あるんだと思って連れてきた」


「だ、大好きです歴史!…」



……て、いうか。



「リヴァイ兵士長!?…い、いつ私の部屋に…!!」


「…」


「え、あの…リヴァイ兵士長?」


「さっさと入れ」


「あ、え、あ……はい…」



だんまりを決め込んだ兵長。

…こ、恐い。いつ私の部屋に入ったんだろう。

でも、兵長の事だし、きっと仕事関連だよね。私情なんてある訳ないもの。



兵長に言われた通り資料室に入ってみると、そこは貴重な資料やら、たくさんの本が並べて置いてあった。

想像していたよりも広い。

私は探究心を燻られて、すぐに本に飛び付いた。



「すごい…!こんなにたくさんの本が…!…あの、ここって私なんかが入ってよかったんでしょうか…?」


「あぁ、その事なら此処の管理人に無理やり許可を得たから心配すんな。気が済むまで探索しろ」


「あ、はは…」



可哀そうだった。

誰なのだろう、管理人さん。

なんかすごくごめんなさい。





だけどそんな事もすぐ忘れて、私は本に没頭した。

本はすごく興味深い。

巨人の手によりこの狭い壁の中では知らない事を教えてくれるから。

本だけじゃなく、巨人による生体検査も私は立ちよらせてもらっている。

それにより新たなデータも入手できたりする。





ハッと気付いた頃、日は真ん中に上っていた。


うあ…、やばい。もうお昼前だ…。


確か兵長は今日、仕事はお昼からだったはずだ。

もう私置いて仕事に行ってるかも。

パタン、と本を閉じて、元ある場所に戻す。

みっともなく、床に座り込んで(正座だが)居た所為で少し体が固い。

立ってから伸びをして念の為兵長を探してみた。




…居た。



兵長の部屋にあったソファよりも幾分か心地よさそうなソファで眠っている。

…でも何故か隙が窺えないのは、この残酷な世界を生き延びてきたからだろうか。

油断したらやられる。その理解が、こうして日常にも現れているのかな。

……だとしたら。

この人はどうして調査兵団なんかに入ったのだろうか。

元は城下町で有名なゴロツキだったと聞く。それが何故急にエルヴィン団長に下る形で調査兵団へ?

顔をじっと覗きこんだ。…この前と同じ顔。

兵長の部屋で膝枕をした昨日と。

綺麗な顔立ち、だけれど日頃の疲れか目には少しの隈。…昨日よりは大分とれているけど。



私はぽすっと兵長の隣に座った。



そして、ふー、と深呼吸をして兵長の頬にちゅっと軽くキス。




あり得ない程の心臓の鼓動を抑えて、ソファをばっと飛びおりた。

…ちょ、ちょっとくらいいいよね…!

だって私達一応、恋人同士…なんだもの…。

…まあ、この事を兵長は知らないけど。

時計を見て、何時頃兵長を起こそうかと考える。





「…おい」


「…へ!?えっ、え…い、いつから起きてたんですか…!?」


びっくりして心臓が口から飛び出そうになった。

うそ、なんで今?もしかして初めから起きてたとかキスに気付いてたとか――



「?今起きた。…それより、もう気は済んだのか?」


「あ…。……はい、すごく興味深くて、楽しかったです!ありがとうございました!」


そうだよね、起きてる訳ないよね…。

少しだけ安心して、それから兵長に深くお礼をした。


「そうか。なら良かった。…俺は仕事があるからもう行く。…って言っても、お前がまだ見たいってんなら此処に居てもいい」


「!!はい、見たいです!」


「…分かった。なら、この部屋の鍵と、許可証だ。変な奴が入ってきやがったらそれを見せろ。大体の奴らはそれで納得するだろう」


「ありがとうございます…、大切にみます!!」


「…春菜」


ふわり、と兵長の手が、私の頭に置かれる。

予想外の出来ごとに私はきょとん顔。

無表情で私の頭を撫で、3時に迎えに来る、とだけ言って部屋を出て言った。



…兵長に撫でられた部分をそっと撫で、思い返して赤面する。

…な、撫でられた…。


兵長に…、頭…撫でられた…!























部屋を出てから、コツコツと靴の音を響かせ自分の部屋へと戻る。

まだ溜まっている書類が山ほどあったはずだ。それを思い出し嘆息する。




そしてまた、自分の頬にそっと手を当ててから、目を細めた。







(あのアホ女…。初めっから気付いてたに決まってんだろうが…)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ