BOOK(進撃)

□三歩
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嫌な、夢を見たかもしれない。

夢の中に巨人が出てきて。

フラッシュバックされるのは巨人の口の中であり得ない方向へと曲がる母の体。

捕食対象になかったのか、巨人は私には見向きもせずに去っていった。


…じっとりと、嫌な汗が頬を伝う。

暇だったので、リヴァイ兵長の部屋に砂糖大量入りの珈琲を置いておいたのだが、飲んでくれただろうか。

…兵長だって昨日の壁外調査で疲れているんだ。

甘いものでも飲んで体を癒した方がいいだろう。

というかあの人はカルシウムが足りない気がする。

…いや、別に冷静だけど。全然怒らないんだけど。

私のかわいい悪戯に対して、異常に長い間説教するのが嫌だ。

正座している足が痺れる。


…そこまで考えて、はあとため息をついて再び寝転がった。

母を殺した巨人が恨めしくて調査兵団に入っただけなのに。

いつの間にか周りの異常な持ち上げで分隊長という階級になってしまっていた自分の空回りさは、我ながらあっぱれだと思う。

…兵長との日々の戦争も楽しいけれどなんだか切ない。

いつの間にか悪化して。いつの間にかこんな関係性になっていた。

…どーしてああなったんだか。

私が「リヴァイに次ぐ人類最強」と言われて無ければ、きっと兵長は私なんかには興味も示さなかっただろう。

…仲間思いの人だけど。

またため息が出る。


兵長の事は嫌いじゃない。

この1年間、生死を共にしてきた仲だ。

お互いに実力は認め合っている…と思う。

任務ではそういった日常の好き嫌いなど関係ない。ただ上官の指揮に従い、目標を達成するまで周りに居る人間は仲間。それ以外はない。

現に、任務に私情を持ち込んでいく浅はかな奴から死ぬ。

任務中は余計な事を考えず、状況を見て考え、ただ上の人と仲間を信頼していればいい。

…そう、私は皆を信頼している。

ただ皆より少しだけ、生き残る術が上手だっただけなのもあるが、信頼は大切だ。

リヴァイ班の皆だって、お互いに実力を認め信頼関係にある。

…なぜかリヴァイ班は一人たりとも私に敬語を使わないが。

まあ階級は上だとはいえ、一応私の方が下だからかな……戦歴も、歳も。

だけどそんな事関係ない。分隊長なんて位はどうでもいい。

皆は私の大事な仲間だ。

例えこの体が壊れようとも、私は大好きな仲間が死にそうになった時どんな手段を使ってでも守ろうとするだろう。

…今度は絶対に死なせない。

私の目の前で、大事な人は…二度と。


…そうだ、守るんだ…。

…何が…、…あって…も…。






「…リヴァイ兵長だって……私が……まも、…」



いつの間にか私は、寝転がっていた所為もあり再び深い眠りについた。

…だって今日は…。

人類の危機なんて忘れるほど、天気がいいんだもの…。



「…」


「説教に来たのに怒らないのかい?」


「…フン」



やっと壁外調査が終わって、リヴァイが壁外調査の報告書類を作るのを手伝おうと思って部屋に入ったら、カップの中が白で埋め尽くされている珈琲がテーブルに置いてあった。

リヴァイはそれを無表情で見詰めて、無言で書類を書かずに部屋を出た。

…私は若干春菜も馬鹿だなーとか思いつつついてきたんだけど。

まさか、あーんな可愛い事言うなんてねぇ。

これじゃあ兵長も怒るに怒れないよ。

やっぱり、春菜はすごくいい子で、可愛い。


「…春菜、…女の子なのにリヴァイ守るって。…強いね」


「…この世界じゃあ男も女も一貫して兵士だ。弱い奴は生き残れねぇ。…それに、俺を守るなんてとんだ侮辱だ」


結局説教をせずに中庭から離れたリヴァイを見て、くす、と笑った。


「…大体あいつの戦い方は無鉄砲で無茶苦茶だ。いつか死ぬだろうよ」


…一瞬きょとん、として、私はまたくすくすと笑ってしまった。

隣でリヴァイが不機嫌そうになんだ、とか言ってるけど、私は嬉しくて仕方無い。

…だってリヴァイはどうせ、その小さな背中で皆の命を背負うつもりなんだろう?

…もちろん、春菜の命も。

女の子に、しかも好感をもっている子にあんな事言われたら、いくらリヴァイでも意地でも死なす訳にはいかないよね。



私の立ち止りも気にせずに、リヴァイは一人ですたすたと歩いて行く。

…やっぱり、私はコイツ、生意気だけど好きだ。

それは恋愛感情などではなく、仲間としての意識。

一人で歩くリヴァイの背中をどんっと叩き、顔を覗きこむ。


「ねぇねぇ!いつ告白すんの!?」


「…はぁ?」


「春菜にだよー!好きなくせに!」


「…。…あいつ女だったのか?」


「ぷっはは!その冗談最高!…んで?いつ結婚すんの!?」


「…何故話しが飛躍する。馬鹿かてめぇは」


「おお!!やっぱ好きなんだ!」


「ハンジ…あと一言でも喋ってみろ。…削ぐぞ」


「うは!!リヴァイ素直になりなよー!」


「…もう喋るんじゃねぇ」






太陽に照れされた三歩







(んー…、ん?…え?なにこの毛布。妙に寝心地がいいと思ったら…)

(あぁ、起きたの春菜。それならリヴァイ兵長がかけてたわよ)

(うへぇ!?兵長が!?なにそれ怖い!!…あ、珈琲ばれたのかッ!!く、逃げなきゃごめんねペトラ!!)

(…本当懲りないよね)




…逃げなきゃとか言いながら、ちゃっかり兵長に渡す毛布持っていってるじゃない。

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