僕らのVesttaste!

□混乱
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「…春菜」

デントさんの声が、何時も以上に耳に響く。
常時ずっと聞いて居たい、柔らかくて優しい声なはずなのに。





「分かって、ますよ」




今は、誰の声も聞きたくない。
























『あのぉ…春菜は居ますかねぇ…?』



『…!!!!』



…、おかあさんだ。



背中にぞくり、と嫌な汗が伝う。

視線を床に落としながら、手が震えているのが分かった。




そんな時。

デントさんが口を開く。


『春菜…さんは、今少し出掛けていて居ませんが…何かご用でも?』




デントさん…。

気を使ってくれてるんだね。

私、迷子のはずなのに。


…嬉しい。嬉しいけど…。

…。





『あ、初めましてー!私、春菜の母です、零花と申します!何時も何時も、娘がお世話になっております』










『え…、お、お母様…ですか…!?』




…まあ、驚くのも無理は無い。

認めたくないけれど、うちの母親はものすごく見た目が若いのだから。

昔、小さい頃母と歩いていて、よく「お姉さんかな?」って言われてたなぁ…。

その時の母の顔と言ったら…。

…!?

…違う、今はそんなこと思ってる場合じゃない。

非常事態が起きたんだ。

幸い、私はメイクをしているのですぐにばれることは、ないと…思いたい。



『はい☆』


『…そ、そうでしたか…。すみませんが、今春菜さんは…』


『ああ、居ないんですね、分かりました』


『…』


『ところで、貴方がデント様、という方でしょうか?』


『え?あ、はい。僕ですけど』


『ふぅん…』


母親は、デントさんをじろじろと見詰める。

…私と同じ、忌わしい赤い目。

そんな目で、デントさんを見ないでよ。


『噂通り、とても格好いい方ですね!』


『は、はぁ…。どうも』


…駄目だ。

今、私は愛華なんだ。

もう逃げなきゃ。


私は客のふりをして、店から出ようとした。





ガッ


『ッ、!?』


『…』


お母さんが、私の腕、を掴んでいる。


な、ん…で?


今、私は愛華のはず…。





じっと赤い目で見詰められて、呼吸さえも困難になった。



『…な、なんですか』


『…いえ。なんでもありません』


ぱっと手を離される。
安心した私は、ほっと胸をなでおろした。
よかった、ばれなかった。

そして、出て行く時に聞こえたお母さんの呟く声。



『……早く連れ戻さないと、パパが怒っちゃうわね』






『…っ』






お父さん、が。

やっぱり私、連れ戻されちゃうんだね。








嫌だ。







嫌だよ、デントさん。


















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