僕らのVesttaste!

□闇
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「あ、お腹空いてないですか?」

「は、はい。大丈夫ですわ」

「喉は乾いてないですか?」

「ぜ、全然」


…現在。デントさんとデート中。

優しい口調で、色々私を気遣ってくれる。

けど。なんか、すっげぇぎこちないです、自分。

なぜなら、私は今、春菜ではないから。


「大丈夫ですか?愛華さん」

「え、えぇ…」


私の名前ッスか?

ええ、もちろん春菜ですよ。

ええ、もちろん愛華なんて名前じゃあないですよ。偽名ですよ。

「それにしても、美人ですね」

「はぁ!?それって私の事ぉ!?」

「え、なんか失礼な事言いました!?」

「あ、全然!寧ろ嬉しいです…」

デントさんが私の事美人って!美人ってええ!
きゃー!!こんなことあっていいの!?
顔が熱いんですけど赤いんですけど!!

「いやー、それにしてもほんと、今日はすみませんね」

「あ、いえいえ!お気になさらず」

「突然居なくなった春菜を探すのを、手伝ってもらうなんて」


「きょ、今日は丁度何もない日なので」


そう。

私は今、愛華という架空の人物になりきっている。
化粧をしている為、デントさんは気付かない様だ。
…っつーか、化粧してるだけで気付かないってどんなだよ!?
しかもデントさんの口から美人ですねだとぉ!?
普段、私の他の女にはそんな口きいてんのか!
…。
ううむ。そう考えると果てしなく嫉妬に狂うなあ。

…そして。
なぜ、こんな事になったのかと言えば。








今日、私はデントさんを誘ってお買い物に行っていた。おやすみをもらって、ね。
それで、途中デントさんを騙してやろう、と思った訳よ。
「此処ら辺見てて下さい」つってトイレに駆け込み、あらかじめ買った洋服を着用。
グラサンをかけ、最後にメイクをする。
完璧だ。トイレの鏡で自分の姿に見とれる。
…はっ、こんなことしてる場合じゃない。
まるで偶然の様にぶつからなきゃ。

「えっと……。あ、居た居た」


「…春菜、遅いなぁ」


「ふふ、待ち侘びておるわ、ふふふ、はははは!」


と、そこで気付く。
周りの訝しげな視線に。
…おっとっと、こんなことしてる場合じゃない。


さて…こっそり、こっそりぶつかって…。

「きゃっ!」


「えぇっ!?」

「いったぁーい」

「え?だ、大丈夫ですか?なんか、何もない所で転びましたよね?」

「な、何もない所…。…。いたた…、あの、ありがとうございます。優しい方ですね」

「い、いえ。目の前、しかも何もない所で急に女性がこけたら誰でも助けると思いますが」

「ちなみに、お名前は?」

「え?あ、デントですけど」

「す、素敵な名前ですね!」

「あ、ありがとうございます。…じゃ、僕はこれで」

「ま、待って下さい!」

「はい?」

「あの…誰か、お探しですか?」

「…はい?」

「お手伝いしますわ」

「いやいやいやいや!ええ!?い、いいですよそんな!」

「私、デントさんのファンなんです。是非手伝わせて下さい!」

「…え。僕のファンって…。…でもなあ」

「お願いします!」

「…それじゃあ…お願いしようかな」

「あ、ありがとうございます!」






で、そんなこんなで、自分からはまった穴にぬけだせない自分。
本当はすぐに実は春菜でしたーって言おうと思ったのに、もうここで言ったら絶対怒られるのが分かってるから言えない、って言うね。うん。

あ、ちなみに。
愛華、という人物の設定はこうだ。
・超人気アイドル
・超美人
・超多忙
・今はoff



「そういえば、デントさんって恋人とかはいないんですか?」

「あはは、居ませんよ、恋人なんて」

「へ、へぇ。そうなんですか」

うん、此処で居るっていったらびっくりだわ。

「…あ、あの…春菜さんとかとは…恋人じゃあ、ないんですか?」

「え?春菜と?…。…あはははははっ、はははははははっ!あははは、ははは、ははっ、はは!」

「…」

「ははは、うっ、げほっ、あははは、ちょ、あり得ませんよそんなの!あははははははっ!」

「殺しよっとよ?」

「Σえぇ!?なんでですか!?」

コイツ、殺してやる。
絶対、殺してやる。
春菜に戻ったら覚えてやがれ。

「お、おほほ。冗談ですわ」

「そ、そうですか」

「…で、でも、ちょっとは好きだったり?」

「…え、」

急に横を見るデントさん。
え?な、何?

「デ、デントさん?どうかしたんですか?」

「あ、いえ、なんでもありません…」

だったら何故横を向くんですか?

と、思った途端、デントさんの向いている方にアイスクリーム屋さんがあった。
成程!あれが食べたいんですね!

「デントさんアイスが食べたいんですか?」

「え?アイス?いや、別に…」
「ですよね!じゃあ行きましょう!デントさんのおごりで!」

「Σ僕一言も食べたいなんて言ってないんですけど。…まあ、いいんですけどね」

「えへへ、アイス、アイス♪」

「…」

「おいしー、アイス、食べたいなー♪」

「…。似てる」

「アーイス…?…何がです?」

「いえ…。愛華さんって…春菜に似ている…」

「…ぎくり。……………。……。…ひゅ、ひゅ〜♪そんな訳ないじゃないですか。あ、あそこに100円落ちてるよ?」

「怪しすぎるだろ!!怪しすぎて、もう逆に怪しくないレベルだよ!!」

「だったら、うん、いいんじゃないのかな」

「…そうですね。じゃ、アイス食べます?」

「食べるー!」

「…似てる」

「アイスですわね。お、おほほ。上品な私には似合いませんけれど、そんなに食べないのなら別にいいですわよ」

「真逆!…ま、いいか。似てるだけ、だ」



あぶねぇ…(-_-;)



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