BOOK

□just be friends
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「春菜ー!」




遠くで、私を呼ぶ声がする。

とても愛しくて、安心するこの声は…。

私は重い体をゆっくりと持ち上げ、カーテンを開ける。

そこには、にっこりと笑う士郎…私の、恋人が居た。

窓を開けて、瞼をこすりながら挨拶をする。



「…おはよう」


「あはは、髪の毛ぼっさぼさだよ?」


「…寝起きですから…」


ブレザー姿の士郎を見てから、軽く嘆息する。

…今日は土曜日なのに、学校なんだよね…。

高校って、中学と違って休日さえ登校日になるもんなあ。

まあ、その為の埋め合わせなんかは月曜日が休日になることで出来ているっちゃあ出来てるんだけど。

…それにしても、眠い。

こんなに瞼が重いのは異常だ。

士郎が目の前に居て、テンションが一向に上がらないのもおかしい。

ちらりと、棚の上にある目覚まし時計を見てみる。

時計の針は、7時を指していた。



「…士郎、早すぎ」


「春菜に一秒でも早く会いたかったからだよ」


「………うん、私も、朝から士郎に会えて嬉しい」


士郎の告白紛いな台詞に胸を打たれながらも、私は赤くなりつつ言葉を返す。


「ありがとう、春菜。大好きだよ」


「てっ、照れるよ…」


「本当の事だからね」


「…ずる…」


「何か言った?」


「何もないです!…あ、家上がって。寒いでしょ」


「ホント?失礼しまーす」


私は一応、家族と暮らしている。

だけど、親は月に1度くらいしか帰って来ないので、自分の事は殆ど自分でやっている。

生活費等は振り込まれる仕組みになってるけど、一応バイトと両立。

お小遣いは多いに越した方がいいからね。

…だけど、最近士郎からバイト止めなって言われることが多いんだよね。

なんでか分かんないんだけど。


階段を降りると、士郎がじーっとカレンダーを見詰めていた。

…あ、そこには友達と遊ぶ日の予定とか、バイトの予定とかその他もろもろが色々書きこんであるんだけど…。


「…今週は、2回…か」


「もう、士郎ってばまたカレンダー見てる」


「…だって気になるから」


「でも、私、普通にバイトしてるだけだよ?」


私がそう言えば、士郎は目を光らせた。

え、ちょ、怖っ。


「それだよそれ!春菜のその認識!」


一瞬で詰め寄られて、私は後退する。


「普通にバイトしてるだけだったら、なんでポケットに知らない男のメールアドレスの紙が何十枚も入ってるのかな!」


「そ、それは…接客の時に渡されて…」


私なんかの何処がいいのか分からないけど、接客業のバイトの時は、必ず五、六人に声をかけられ、後で連絡して、と電話番号やらメールアドレスやらが書かれた紙を渡される。

かけた事はないのだが、はっきり言ってものすごくめんどくさい。

行為は有難く受け取ってくんだけどさ。


「春菜は優しすぎるんだよ。あと可愛すぎ。…もうちょっと冷たくならないと」


なんかさらっと照れるような事言われた気がしたけど。

…私、冷たくはなれないかも。

基本、重大な用でもなければ友達の誘いは断れない派だし。


「ちゃんとアピールしないと駄目だよ?」


「な、何を?」


「私には彼氏居ますアピール。してないでしょ」


「…してないかも」


「…ふう、これだから」


なんかため息をつかれた。

い、いけない事なのだろうか。

普通に考えれば彼氏居ますアピールって彼氏居ない人にとってはかなりイラつく発言だと思うんだけどなあ。


「…春菜は可愛いから…不安になるんだよ…。他の男に盗られたらどうしようって」


「…士郎」


そんなこと、あるはずないのに…!

私が士郎以外の誰かを好きになるなんて、地球がひっくり返るくらいあり得ないよ。


「…大丈夫だよ。私は、士郎を愛してる。誰よりも。…それに、士郎以外を好きになる自信なんて…ないよ」


「…春菜…。…僕も、愛してる」


士郎がそっと抱き締めてくれた。

…私は、士郎が一番好き。

もし、他の誰かを好きになるなんて事があったら

その時は…


貴方のその手で、私を、











「…、春菜?なんか言った?」



士郎が不思議そうに私を見る。

私はにっこり笑った。



「なんでもないよ」

























“殺して?”









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